登校
不知火くんと登校するようになって数日、彼と接してみて感じたことがある。
彼と関わるまでは、ぶっきらぼうで、誰と話すときも一線を引いている気がしていた。なにより、すまし顔でテストで高得点を取る。他の人としゃべっているのも含めても、愛想笑い以上の顔の変化がなく、何を考えているのかわからないから苦手な人だった。
だから私をナンパから助けてくれた日は驚いた。ナンパに対して怒った。それも自分のためではなく、私、彼ら自身のために。そして彼らを追い払ったあと、私に見返りを求めるでもなく「もっと自分を大切にして下さい。あなたを大切に想い、心配する人がいるはずです。」と言ってくれた。
本当に驚いた。けーくんと似たようなことを言うものだから。苗字が違うので流石に別人だろうが、男性が苦手な私にとって、頼れる異性は彼しかいないと思ってダメ元で連絡先を聞いたが、すぐに了承してくれた。
一緒に登校してくれるようになってからは、色んな話をした。彼は私と同じく特待生で、シングルマザーの母と姉のために成績はトップを維持していると聞いて勝手に共感してしまう。私の話を聞くときは、過去の話や、家族の話を無理に聞こうとせず、気遣ってくれていた。
どうやら関わる前まで感じていた彼との一線は、無意識のうちに引いているようで、話すこと自体は彼は拒んでいない。むしろ話してみると、意外にも話しやすかった。なおさら無意識のうちにある壁のことが気になるが、気こうにも聞けない。もっと仲良くなれたら、壁もなくなるかもしれない。
電車を降り、学校、教室まで並んで歩く。初めの頃こそクラスメイトは、私達はたまたま一緒のタイミングで入ってきたと思っていたようだが、日が立つにつれて私達が一緒に登校していることに気づいたようだ。ざわざわとしたコショコショ話と、好奇な目線、嫉妬の目線が入り混じっている。時折聞こえる話の内容は、「なんであいつといっしょにいるんだ」「氷室に彼氏できたってまじ?」「彼氏なんかいねえだろ、たまたまだよ」なんてものが大半だ。
ー好き勝手言って。そういうところが本当に…ー
頭に浮かんだ怒りの言葉を、すぐに自制する。それ以上はいけない。不知火くんのような人もいるし、もちろん彼の理解者もいるだろう。
当たり前だが、全員が全員屑ではないし、聖人でもない。多くの人間はどちらでもない、またはどちらでもあるに属する。私が完全な聖人だなんて思わないし、屑でもないと信じたい。そして好き勝手言っている彼ら彼女らや、ナンパたちに完全に善意がないなんてこともないだろう。
頭では理解できる。だが腹のそこで否定する私がいることも事実。自分の感情すら分からない私に他人の心を理解することは不可能だ。
言い訳のような、御託を並べたって意味はない。お母さんのためにも、自分のためにも、進まなくてはいけないのだ。まして、後退することなどあってはならない。
私は彼らの言葉を無視し、席に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます