スーパーで買い物 後編

 「私の男性慣れを手伝っていただけませんか?」

 目をそらしながら氷室さんは言う。

 先程の発言と合わせて考えると、過去に何か大きな事が起きて、それがきっかけで男性不信になったといったところか。そしてそれを治そうと苦手なはずの男である僕に頼んできた。

 正直とても断りたい。おそらく彼女ほどではないが僕も女性に苦手意識がある。苦手というより関わりを持ちたくないといったほうが正しいかもしれない。

 小学生のころのとある出来事から僕は誰かを好きになることはなくなった。しかし、それ以降数人の女性に告白された。

 胸を締め付ける痛みを抑えながら断ってきた。

僕はその人たちのことが好きじゃないから。

 恋愛なんて糞だ。付き合って結婚まで行く人がどれだけいるだろうか。 大抵の場合、破局する。そもそも告白しても振られることもある。誰も幸せにならない。振る側だって辛いことだ。自分のことを想ってくれる人を拒まざるを得ない。

 そう自分に言い聞かせてなるべく関わりを持たぬよう努めてきた。一人称を変え、容姿を地味にし、気も持たれぬように。

 だが目の前の彼女はどうだ。自分を変えるために一歩踏み出した。これを僕が拒んだら彼女は次の一歩を踏み出せるだろうか。

 「わかりました」

 これは覚悟だ。過去に囚われた自分を変えるための。

 「ありがとうございます、不知火くん。じゃあスーパーにいきましょう」

 

 スーパーでの買い物が終わり、2人で帰路につく。

 「あの、敬語じゃなくてもいいですよ。普段クラスの人達とはタメ口で話してますよね?」

 「わかった。君は?」

 「私は敬語がしみついてますんで…」

 「無理に使わなくていい。すまない、考えが足りなかった」

 彼女がタメ口を使っているところは見たことがなかった。

 「いえ!いずれ使えるようになりたいですから」

 「そっか。そういえば氷室さんは普段からこのスーパーに?」

 「はい、家が裕福ではありませんので… 

私が料理を担当しているんです」

 「ご両親は働いているの?」

 「父はいません。蒸発しました。母が1人で育ててくれました。」

 「そっか…」

 「不知火くんはなんでこのスーパーに?」

 「似たような感じ。小学生の頃に父が亡くなって母と姉と3人で暮らしているんだ。母は仕事、姉もアルバイトだから僕が料理を作ってる」

 「そうなんですか…」

 少し気まずい空気になった。

 「そうだ、家はどこらへん?知られたくないんだったら駅まで送るよ」

 「いえ、知られても構いません。〇〇です。」

 「え、同じだ。」「本当ですか?」「ああ」

 「なら家まで行ってもいいか?さっきもあんなことがあったし」

 「それは駄目です!ごめんなさい」

 「こちらこそすまない、変なことを聞いた」

 「いえ、私の問題なので謝らないでください」

 電車を待ちながらお互い謝罪し合う。

 「じゃあ家が別れるところまで行くよ」

 「それでお願いします。ありがとうございます」

 電車が来たので乗ったら、たまたま2人分の席が空いていたので2人で座った。すると、彼女が覚悟を決めたような顔で言ってきた。

 「あの、、もし良かったらライン交換しませんか?」

 

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