スーパーで買い物 前編

 「大丈夫でしたか?」

 2人組のナンパたちが視界から消えるのを見届けてから氷室さんに声をかける。

 「おかげさまで、ありがとうございます」

 震えは収まっているようだ。

 彼女が男性が苦手なことは、普段の様相から容易に察せられる。先程のナンパにたいする冷静な態度も、おそらく普段から同じような場面に遭うからだろう。

 「これからはこういう道には1人で来ないこと。もっと自分を大切にして下さい。あなたを大切に想い、心配する人がいるはずです。 話は終わりです。この先に目的地があるのでしょう?大通りまでは一緒に行きましょう」

 「え?」

 彼女は驚いた顔でこちらを見る。

 「ここで別れたら本末転倒ではないですか。僕のことが苦手なら僕の前を歩いて下さい、見える範囲で」

 「いや、そんなことはないですけど」

 「そういうことなら」 

 小路の残り100メートルほどを並んで歩き出す。

 しばらく無音の空間が続く。少し気まずい。

 「そういえば、どこに買い物にいくんですか?」

 「スーパー〇〇にいきます」

 「あそこは安いですもんね。僕も今からいくんですよ」

 そんなことを話しているうちに大通りに出る。

 ここまで来たらもう大丈夫だろう。

 「じゃあ、気を付けて」

 「え?」

  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る