ナンパを撃退
新学期初日の授業が終わり、放課後になる。今日は生徒会も他の用事もないのですぐに帰路についたが、家に卵やその他の食品がないことを思い出し、少し遠くはなるが、安くて品揃えの良いスーパーに行くことにした。大通りから行っても良かったが、早く帰って母のために夕飯の準備をしないといけないので近道をすることにした。
しかし、すぐにその選択を後悔することになる。
「どうしたの、おねーさん、1人?」
小路に入ってしばらくして金髪の男性2人に声をかけられる。
「買い物に行くのですみません」
「なら俺たちといこうぜ、そんでお茶でもしよーか」
勝手に話を進めてくる男性に少し腹をたてるが、顔には出さぬよう努めつつ「結構です」と言い立ち去ろうとする。
「おいおい、俺たちがさそってるんだぜ?彼氏でもいんの?俺たちのほうが良いに決まってるって!」
最悪だ、話も通じない上にもう1人の男性によって道を塞がれ無理矢理突破しようにもできそうにない。
「彼氏は居ませんし作る気もありません。時間もないので離してください。」
「あ?なめんじゃねーぞ、拒否権ないから。」
男性の口調が荒くなり、腕をつかまれる。
ー嫌だ、怖いー
「あの、彼女になにか用ですか?」
後ろから聞こえた声に咄嗟に振り向くと、そこにはにこやかに余裕そうな笑みを浮かべる不知火くんがいた。普段はだるそうにしていて、彼が笑みを浮かべた姿は1年生ときも合わせても一度もない。
しかしそれは偽の笑みであることは明白で、なんだか怒っているようにも感じた。
見た目は良い方であるという自覚は今まで何度もナンパされてきたことから持っている。そして通りがかった人に助けてもらったときは決まって連絡先の交換を要求してきたり、食事に誘われたりする。酷いときはその流れ自体がマッチポンプだったときもあった。
相手の反論の様子からマッチポンプということはないだろうが、助けてもらったあとに何を要求されるかわからない。それにそもそも私がこんな道を通ったことが問題だというのに、他人を巻き込むわけにはいかない。
「いいえ、でもあなたには関係ないです。行ってください。」
2人くらいなら私でもなんとか対処はできるだろう。最悪後ろに走って大通りまで出たらこの2人組もこんな強引な行為にはでれないはずだ。
「確かに、僕には関係ない話か。なら話はこれで終わり。ところで君たち、僕と3人で遊びにいかない?」
不知火くんは、私の発言に乗っかってきた男性たちにそう聞いた。
「は?」
「だから、僕と遊びにいこうよ?」
「なんでてめーなんかと出かけなきゃいけねーんだよ。それに俺がさそってんのはこっちの子だから」
「なんで彼女には拒否権がなくてあなたたちにはあるんです?」
「いやいや、俺が先に誘ってたんだからもう予約してんの」
「彼女にもすでに予定があったはずです。それは無視するのに自分は良いとか随分都合の良い人ですね。」
「ごちゃごちゃうるせーな!」
金髪の男性の1人がしびれをきらして不知火くんに殴りかかった。
ー危ないー
私が叫ぶよりも前に、金髪男性の拳は彼の掌に収まっていた。
そして彼は笑みを崩し、さっきより2オクターブほど低い声で話す。
「失せるべきは君だ。君たちは越えてはならない一線を越えたんだ。でもまだやり直せる。これは命令ではなく忠告だ。君が次に一線を越えたとき後悔して悲しむのは君だけじゃない。家族や友達、あらゆる君のことを想ってくれる人たちを傷つけることになる。」
「…チっ行こーぜ」「あぁ…」
2人は彼や私が来た方向に歩き出した。その丸くなった背中に向かって
「もし今言ったことが完全に理解できた日には謝ってこい。今まで迷惑をかけて来た人にな。たとえ相手がそのことを忘れていようが、怒っていようがだ。それがきっと相手にとっても君たちにとっても救いになるはずだ。」
2人は一瞬動きを止めて、無言で歩き出す。こちらを一切向かないが、何かを考えている様子が伺える。
2人の姿が完全に見えなくなると、私と不知火くんの間に数秒の沈黙が流れる。
ーああ、またこのパターンかー
また連絡先を聞かれ、見返りを求められるのだろう。助けてくれた人相手に最低なことを考えてしまう自分に嫌悪感を持ちながら彼に礼を伝える。
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