ナンパを目撃

 全校集会が終わり、クラスに戻って席に着いたとき、目の前の席が先程まで壇上で話していた次期生徒会長の氷室陽菜であることに初めて気がついた。美しく、長い黒髪をポニーテールで結び、整った真剣な顔で次の授業の予習をしている姿はまさに全生徒の鑑であろう。

 僕の母は今も働いてくれている。それにこの学校は特待生として入ったので成績なんて落とすわけにはいかない。目の前のライバルに負けじと次の予習を始めた。

 あれから半日ほど経ち、ようやく放課後が訪れた。

ー今日の献立は何にしようかー

 仕事で忙しい母や大学生でアルバイトもしている姉のために、夕飯の担当は僕が担っている。ちなみに弁当も母と自分の分を毎朝作っている。

 冷蔵庫で卵やその他諸々の食材が枯渇していることを思い出し、少し遠いが大きくて安いスーパーに行くことにした。

 近道をしようと近くに治安の悪い学校(いわゆる底辺校)のある細めの道を進むと、前方に女性1人と男性2人がなにか口論になっているのが見えた。恋愛関係だろうか。踵を返し別の道から行こうと思ったが、女性の顔を見てやめた。

 「あの、彼女になにか用ですか?」

 「あ?今からこの子とデートに行くんだよとっとと失せろ」

 「そうなんですか?」

 表情は澄ませているが若干震えている。虚勢であることは明白だった。そらそうだ、彼女は男性不信なのだから。まあ、だからこそこの絡みに首を突っ込んだ訳だからな。

 「いいえ。でもあなたには関係ないです。行ってください。」

 冷たいな、とも思うかもしれないが、彼女なりに僕、というか他人を巻き込みたくないのだろう。

 「そういう訳なんで、さっさと消えて?」

 目の前の金髪男を氷室に負い目をかけず、かつこの男性に恨みが残らないように追い払うか思考しながら彼女の前に立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る