僕の部屋には、いくつかの鉢植えがある。

ベランダに並べられた小さな植物たち。サボテン、多肉植物、観葉植物。どれも枯れにくい、丈夫な種類ばかり。

それでも、時々枯れてしまう。

僕が怪我をした時。転んだ時。包丁で指を切った時。

その度に、鉢植えが一つ、枯れていく。

今日僕は、彼女が僕のアパートに来る前、僕は料理をしていた。

包丁で指を切った。

血が滲む。でも、すぐに止まる。傷が消えていく。

ベランダを見ると、サボテンが枯れていた。


彼女が来た時、彼女はベランダのサボテンに気づいた。

「これ……枯れちゃったんですね」

「ええ」

僕は短く答えた。

彼女はしばらくサボテンを見つめていた。

「可哀想に」

彼女は呟いた。

そして、サボテンに手を触れた。

その瞬間、サボテンの茶色く変色した肌が、少しずつ緑色を取り戻していった。

しわしわだった表面が、ふっくらと膨らんでいく。

「え……」

僕は息を呑んだ。

彼女は自分の手を見た。

手のひらに、小さな傷ができていた。

「あ」

彼女は少し驚いた様子で、カバンからハンカチを取り出して血を拭った。

「生き返らせるには、代償が必要なんです」

彼女は僕の差し出した絆創膏を貼りながら、言った。

「でも植物の傷とか小動物の傷は、軽いんです。私が手を切る程度」

一瞬の静寂が流れた後、彼女は微笑みながら続けた。

「だからこれからは貴方が殺してしまった分、私が引き取ってあげます」

「……」

僕は何も言えなかった。

彼女は緑色を取り戻したサボテンを優しく撫でた。

「大切にされていたでしょう? 以前、サボテンの花が咲いた時のこと、満面の笑みで話されていましたよね」

その言葉を聞いた瞬間、僕の胸に何かが込み上げてきた。

そうだ。

僕は、嬉しかったんだ。

小さな花が咲いた時。

新しい葉が伸びた時。

本当は、悲しかったんだ。

枯れてしまう度に。

処分しなければならない度に。

でも、僕は心を殺していた。

感情を抑えていた。

それが当然だと思っていた。

「……ありがとうございます」

涙が、僕の頬を伝った。

「でも、あなたに傷ついてほしくない」

「大丈夫です」

彼女は優しく言った。

「私は平気ですから」

でも、僕は不安だった。

彼女が、僕のために傷つき続けることに。

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