後悔

時が経って僕たちは講義の後に一緒に学食を取るようになり、いつしかカフェで一緒に勉強をしたりするようになって、徐々に距離を近づけていった。

ある日、彼女が僕のアパートに遊びに来た。

散らかった机の上を見て、彼女は苦笑した。

「すごい散らかりようですね」

「……すみません」

「いえいえ」

彼女は上着を脱いで、袖をまくった。

「片付けましょうか」

「え、でも」

「一人だと大変でしょう?」

彼女は机の上の本を手に取り始めた。

「これは本棚に。これはゴミ箱に」

彼女の手際の良さに、僕はただ見ているしかなかった。

やがて、机の上が綺麗になった。

「はい、完成」

彼女は満足そうに笑った。

部屋が、明るく見えた。

そして、彼女は台所に立って、パンケーキを焼いてくれた。蜂蜜の甘い香りが部屋を満たした。

「はい、どうぞ」

彼女が差し出した皿を受け取る。

温かかった。

部屋も、心も。


ある日、僕は彼女に話した。

学食の隅のテーブルで、僕は自分の手を見ながら言った。

「僕が生物殺しって呼ばれてるの、本当なんです」

「……知ってます」

「いや、噂じゃなくて。本当に、周りの生き物が死ぬんです」

彼女は黙って聞いていた。

「花とか、虫とか、鳥とか。反射的に、無意識に」

僕は自分の手を握りしめた。

「だから、みんな僕を避けます。当然です」

沈黙が流れた。

やがて、彼女が口を開いた。

「……私も、能力?があります」

僕は顔を上げた。

「私は、他者の痛みを自分に集めることができるんです」

彼女は自分の手を見た。

「小学生の時、同級生が怪我をして。思わず、その子の手を取ったんです。そうしたら、傷が消えて」

「それで?」

「その子は喜んでくれました。でも、周りの子たちは……気味悪がった」

彼女の声が小さくなった。

「その子は『変な奴』として、みんなから避けられるようになった。私が助けたせいで」

「あなたは?」

「私は、自分の能力を隠しました。その子とも、距離を置きました」

彼女は唇を噛んだ。

「私は自分を守った。でも、その子は一人になった」

ああ。

だから、彼女は僕に近づいてきたのか。

「あなたを見た時、その子を思い出したんです。同じように、一人で。同じように、避けられて」

彼女は僕を見た。

「今度こそ、逃げたくなかった」

その瞬間、僕は理解した。

彼女は贖罪のために、僕に近づいたのだ。

でも、それでもいい。

理由が何であれ、彼女は僕の隣にいてくれた。

側にいてくれる、この事実が僕にとっては何よりも重要だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る