善悪の歪な均衡
第6話 冷徹な光と冷酷な闇
また別のある世界にて──空は赤く、大地は荒れ果てていた。かつては穏やかな草原が広がっていたが、今や黒き炎と光の奔流が交錯する戦場と化している。その中心で、二つの存在が激突していた。
一方は、白銀の鎧に身を包み、まばゆい輝きを放つ聖剣を掲げた若き勇者・ルーク。もう一方は、黒きマントを翻し、禍々しい魔力を纏った魔王・ガルド。その手には、漆黒の刃──魔剣が握られていた。
「今日ここで、お前の支配を終わらせる!」
ルークが叫び、地を蹴る。その剣は、まるで星の光を集めたような閃光を帯びていた。
「フッ、来い、勇者。お前の剣の光ごと、俺の手に収めてやる。」
ガルドは低く笑い、漆黒の魔剣を持ち上げる。彼の足元からは闇が噴き出し、地面に影を這わせた。
剣と剣が激突するたびに、空間が震え、視界が歪むような衝撃が周囲を包んだ。その戦いはまさに、天地を揺るがす一騎打ちだった。
ルークが振るう聖剣は、あらゆる邪悪を祓う光の力を持っていた。その一振りには、大地を清め、世界を救う力が宿っていたと人々は語る。
だがガルドの剣もまた、一切の秩序を否定する混沌の力を秘めていた。その刃は触れるものすべてを侵食し、崩壊させ、理さえも破壊するとまで語られていた。
「この世界は俺が支配するつもりだったが……人間共には愛想が尽きた。滅ぼしてやろう。」
ガルドは冷然と言い放つ。
「違う! 人はまだ立ち上がれる!希望は……この剣が証明する!」
ルークの叫びに応じるように、聖剣が眩い輝きを放つ。まるで意志を持ったかのように、聖剣は彼の心に語りかけてくる。
──倒せ。破壊せよ。闇を一掃せよ。
「魔王! この聖剣の力で、今日こそお前を倒す!」
「伝説の聖剣などくだらん。我が魔力で、いずれその剣も新たな魔剣へと変えてやろう。」
「そんなことはさせない!この聖剣が、それを阻止する力を与えてくれる!」
ルークの体がまばゆい光に包まれる。その光はさらに強く、激しくなり、一瞬ガルドすら視界を遮られた。
だが次の瞬間、異変が起きた。
その光は、ただの希望の光ではなかった。聖剣が放つ光は、どこか氷のように冷たく、どこまでも無慈悲だった。ルークの手は勝手に剣を振るい、意思とは無関係に体が動き出す。
「な……何だこれは……!」
ルークの叫びは風に消えた。聖剣は、彼の手を通じて意志を持ち始めていた。かつて邪悪を祓うために生まれた剣。それは同時に、“正義以外を許さぬ裁きの剣”でもあった。
その正義が、ルーク自身をも罪人と見なし、意識を侵食し始めていたのだ。
「やめろ……!俺の体が……勝手に……!」
しばらく様子を伺っていたガルドは、やがてその異変に気づいた。
「ほう……その剣は、光に見せかけた“支配”の力か。皮肉だな、勇者よ。聖剣の操り人形になるとは……」
ルークの目が虚ろになる。理性は深い霧の向こうへと追いやられ、代わりに聖剣の“使命”だけが心に響いていた。
──この世界に、裁きを下せ。
彼の体は聖剣の意志に従い、次の一撃を放つべく構えを取っていた。それはもはや、彼自身の戦いではなかった。
そして戦場は、新たな混沌の幕開けを迎えようとしていた──
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