第7話 災厄の聖光
聖剣が放つ光は、もはや希望や正義の象徴ではなかった。それは冷たい裁きの光。ルークの手の中で脈動するその剣は、かつて彼が信じた正義の形を変貌させていた。
ガルドは一歩、地を踏みしめた。足元の瓦礫が粉塵を上げ、焼けた大地の匂いが鼻を刺す。彼は今や、目の前の存在を“敵”と見るべきか、あるいは“被害者”と見るべきかを迷っていた。
「ふん……“聖なる光”が聞いて呆れる。このままでは、俺が手を出さずとも、お前が世界を支配することになるだろうな。」
皮肉と怒気を込めたその声は、いつものように冷酷で重く響いた。だが、ルークの返事はなかった。
彼は微動だにせず、ただ聖剣を掲げたまま立ち尽くしている。彼の瞳は虚ろに光り、何かを見つめているようで何も見ていなかった。
ガルドは目を細めた。
「……まさか、もう俺の声が聞こえていないのか?」
その問いかけに応じるように、ルークがぽつりと呟く。
「……正義を……光を……」
かつての勇ましさも、怒りもない。ただ機械のように紡がれたその言葉に、ガルドはわずかに眉をひそめる。
「……その剣を今すぐ捨てろ。完全に支配されたら、お前は自分の身どころか、世界すら守れんぞ?」
だが、その忠告すら、もはやルークの心には届かない。
「……裁きを……」
再び呟かれる声と同時に、聖剣の輝きが眩く脈打つ。光が剣の中心に集まり、天へと打ち上がる。そして、空で凝縮されたその光は、無数の閃光となって流星のように降り注いだ。
「なっ……やめろ……!」
ガルドが叫ぶよりも先に、光は街へと到達した。
人々に希望をもたらすはずの輝きは、何の選別もなく、人も魔も、獣も植物も容赦なく焼き尽くした。街を行き交っていた人々が、何が起きたのかも理解できないまま光に飲まれていく。
その様子を前にしても、ルークは無表情のまま、静かに次なる“裁き”の準備を始めていた。
それはもはや、彼が守りたかったものの全てを、自ら壊しにかかる光だった。
ガルドは確信した。
「……これは、我らだけの問題では済まされん。聖剣そのものが、“正義”を名乗る最悪の暴君だ……」
静かに、しかし確実に、世界は光によって壊され始めていた──
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