第5話 これはラブコメ作品です。
「見つけた」
そうして先程違和感を覚えた地点まで戻ってきた俺は、そこから少し移動した場所でとある人物を見つけていた。
「うわぁ!?」
そこからの俺の行動は早かった。
見つからないように細心の注意を払いつつ高速で接近し、真後ろから男を蹴り飛ばす。
幸いにもここは人の通りが全くない小道。こんなことをしても誰かに気づかれることは無いので問題ない。
「全く、頼むから仕事を増やさないでくれ」
自分でもびっくりするほどの呆れているかのような声で、その倒れた男に声をかける。
「誰だ、お前はッ──」
「俺の質問への回答以外の発言は許さない。立場を弁えろよ。ゴミ風情が」
立ち上がろうとする男を押さえつけ、無理やり仰向けにして上に乗ることで動きを封じる。それからゆっくりとその首にナイフを当てることで、口も封じた。
「単刀直入に聞く。どこの人間だ?」
「………」
どうやら男は口が堅いらしい。いや、単純に自分の現状を理解出来ていないだけか。残念ながらこの場において黙秘権など存在しない。それを理解してもらうとしよう。
「答えろ」
ナイフを首元から離し、男の足に突き刺す。瞬間、男は目を見開いて悲鳴を上げた。
「……ハッ、言わねえよ。それより、街中でこんな事していいのかよ」
少しして理性を取り戻したのかニヤッと悪い笑みを浮かべる男。その顔を見てつい面倒であると言わんばかりに息を吐いてしまう。
「良いんだよ。俺はそれが許されてる」
この場で情報を引き出すことが出来ればそれに越したことはなかったのだが、男の顔を見るなりそういうわけにもいかないらしい。なので、諦めることにしよう。
「失礼します」
そうして近くにいるであろう部隊の人間を呼ぼうとした刹那、いつの間にか黒スーツの男が俺の真隣に立っていた。
「
「了解しました」
そうして男はその黒服に連れていかれた。道に血が残ってしまったが、どうせ奴らが処理してくれることだろう。
「まったく、面倒だな」
その場を後にした俺は帰路に着きながら空を見上げる。夏に近づいてきて日が伸びてきたとはいえ、さすがにこの時間ともなると日も落ちてきていた。
あの男は、俺達の後を付けていた。どうせそこら辺の雇われなんだろうが、中々に動きが素人で滑稽であった。
その理由は、まあ分かりきっているか。
などといった感じで今日起きたことを整理していると、突然仕事用の連絡端末が鳴り響いた。そういえば珍しく通知を付けていたんだったか。
「なんだ?」
『あっ隊長。どーっすか?』
「先程お前の部下に引き渡した。というか、お前自身が来いよ」
『やーすみません。今手が離せないもんで』
「……
なんとなく奴らの状況を予測してみると、電話越しに驚きの声が聞こえてきた。どうやら、当たっていたらしい。
『あははー、流石は隊長』
「任務三倍」
『すみませんそれだけは辞めてください』
まったく、これくらいで頭を下げるのであれば最初からサボらなければ良いのにな。
「というか、元々お前らの仕事だろ。俺はもう引退した身なんだが?」
『そう言わんでくださいよ。結局一番近くで守ってるのが隊長なんですから』
「極力俺は任務に関与しない。そう言っただろ。今後は警戒を強めろよ」
この一ヶ月で二度も出ることになった。本当であれば出動数ゼロのはずなんだがな。
『りょーかいでーす』
そう言って、通話は切られた。
先程の電話相手は、俺の部下だ。といっても、元という言葉が付くのだが。
俺は少々複雑な事情があって、少し前までそういった裏の世界の住人であった。しかし今は引退し、この平和な表の世界で普通の高校生活を送ろうと必死である。
だが、その学校に彼らの任務の対象が居たらしく、俺は引退したにもかかわらず何故か手伝わされている。彼らの仕事なんだから、彼らで遂行して欲しいものなのだが。
その任務とは簡単に言えば護衛任務。つまり、特定の個人をひたすらに守ればいいということだ。その対象から近い人間がいると任務達成率が高まるということらしい。
薄々勘づいている方もいるだろう。その護衛対象というのが、女王様こと神崎美月だった。なんの因果か、俺はそんな彼女と不本意ながら関わるようになってしまったのだ。
特殊な身分故にこの任務のことを当人にバレてはいけない。そのため関わりが薄いほど楽だったのだが、気づけば彼女は真隣に立っていた。本当に謎である。
だがまあ、今回のようなことは特殊な事例であろう。なぜなら俺の部下達は優秀であるから。
今回に関しては俺が早々に気づいて誰よりも早く対処しただけであって、俺が出るまでもなくあの男は同じ道を辿ることになっていたはずだ。その証拠に、呼んでいないにも関わらず気づけば黒服が傍に来ていた。
これからはなるべく手柄を取らないようにしよう。とも考えたのだが、よく考えてみれば奴らが俺より早く動けばいいだけの話である。なら、俺が変える必要は無いな。
彼らも平和ボケしてきたのだろう。であるなら、ここら辺で一度喝を入れてみてもいいのかもしれない。と、そんなことを考えながら、俺は帰り道を辿るのであった。
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