第6話

悠真は広場に立っていた。

目の前には王国の精鋭騎士団、そして王女ルミエールがニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべている。


「救世主様、模擬戦で王国の戦力を見極めていただけますか?」


「いや、俺、戦う気ないってずっと言ってるんですけど!?」


「遠慮なさらなくても大丈夫ですよ!」


遠慮じゃなくて本気でやりたくないんだよ!!


しかし、王国の騎士団長は感心したように頷く。

「戦う意思を見せず、冷静に戦力を分析する……なるほど、それこそ真の戦術家……!」


「違うってばぁぁぁ!!!」


悠真は泣きそうになりながら剣を手に取った。どうしてこんなことに。


だが、剣を握った瞬間――不意に記憶が呼び覚まされる。


---


**過去――高校時代**


「おい、高城!助けてくれ!」


悠真は、体育館の片隅で嫌な汗をかいていた。

クラスメイトたちが「勝手に」彼をチームのリーダーにしてしまったのだ。


「俺、スポーツ得意じゃないって言っただろ……!」


だが、周囲は口々に「お前なら何とかなる!」「頼む!」と叫ぶ。

悠真は昔から「なんとなく目立ってしまう」体質だった。

そして、気がつけば勝手に責任を押し付けられる。


結果――彼は試合でボロ負けし、クラス全員から責められた。


「なんでお前、リーダーなのに勝てなかったんだよ!」


「いや、そもそも俺、やりたくなかったんだけど!?」


「負けたのはお前のせいだろ!」


「違うだろ!?巻き込まれただけだろ!?」


その日から、悠真は誓った。


**「もう絶対、巻き込まれるのは嫌だ」**


---


**現在――模擬戦場**


悠真は剣を構えながら、過去の記憶に震えていた。

まただ。また、自分の意思とは関係なく、周囲に期待されてしまっている。


だが、その思考の隙を突かれ、目の前の騎士が踏み込んでくる。


「しまった――!」


悠真は反射的に身を引いた瞬間――


「なるほど、見事な間合いの取り方……!」


「違う、ただビビって避けただけぇぇぇ!!!」


だが、周囲はますます誤解を深める。

ルミエールはキラキラした目で言った。


「救世主様、やはりすごい……!!」


悠真は心の中で絶叫した。


**「なんで俺の人生は、こうなるんだぁぁぁ!!!」**


悠真は剣を構えながら震えていた。

目の前に立っているのは、王国騎士団の新星――**ルシア=ヴァン=クラウディア**。


短くまとめた赤髪、鋭い瞳。

身軽な装備に身を包み、今にも跳びかかりそうな姿勢を取っている。


「救世主様、お手合わせ願います」


「いやだから、俺戦う気ないんだけど!?!?」


悠真の悲鳴は当然のようにスルーされた。

ルミエールはワクワクした様子で言う。


「ルシアは王国騎士団の中でも一番気が強いんですよ!」


「だからそんな相手と戦わせるなぁぁぁ!!」


だが、悠真が叫ぶより先に、ルシアは踏み込んできた。


**シャッ!!**


高速の剣撃が悠真を襲う。


「っっ!?」


悠真は反射的に身を引いた。いやいやいや、本当に本気の攻撃じゃないか!?


だが、その回避の仕方が妙に洗練されていたらしく、周囲の兵士たちがざわめく。


「なんと、まるで熟練の剣士の動き……!」


「違う!ただビビって避けただけぇぇぇ!!!」


しかし、ルシアは興奮気味に息を整えながら言った。


「……ふふ、さすが救世主。戦う気がないと言いながら、私の攻撃を完全に見切っている」


「いやだから違うってぇぇ!!!」


そして――


**ルシアは本気になった。**


「では、私が本気で攻めて、救世主様の真の力を引き出してみせます!!」


「やめろぉぉぉ!!」


悠真は叫びながら逃げ出そうとするが、すでにルミエールと騎士団の兵士たちが周囲を囲っていた。


逃げ場、なし。


**終わった――!!!**


そして、ルシアの猛攻が開始される。

悠真の「巻き込まれ体質」は、また新たな誤解を生むことになるのだった……。

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