第5話

悠真は王城の謁見室に座らされていた。


魔王軍の密偵ひろと接触したことで、王国軍と魔王軍の両方から「超戦略家」と誤解されることになったが、ここでさらに新たな問題が発生する。


「救世主様、こちらへどうぞ」


悠真の前に現れたのは、金色の長髪を持つ美しい女性――王国の第一王女、**ルミエール=フォン=エルシュタイン**だった。


「救世主様、私との婚約を受け入れていただけますか?」


「……はい?」


悠真は一瞬、思考が止まった。**結婚!?いきなり!?**


「いやいや、ちょっと待って!?何の話ですかそれ!?」


王国の宰相が涼しい顔で言った。

「異世界の救世主様に王家の血を授けることで、さらなる王国の安定が図れます」


「いや、そもそも俺、異世界から巻き込まれてきたんですけど!?王族になる義務ないですよね!?」


王女ルミエールは困ったように微笑んだ。

「……救世主様は、ご不満ですか?」


悠真は冷や汗をかいた。いや違う、そういう問題じゃない。**俺はただの社畜なのに!**


すると、その場にいたひろが口を開く。

「ふむ……王国の王女を手に入れ、内部から支配する計画か……さすがだ」


「だから違うってばぁぁぁ!!!」


だが魔王軍側もこの情報を聞いて誤解を深める。


「なるほど、王国の王女を手に入れたことで、次は我ら魔王軍との同盟を結ぶおつもりか……」


「だからそんな計画してないぃぃぃ!!!」


こうして悠真は、**王国の王女との婚約を勝手に進められながら、魔王軍との同盟まで勝手に話が進んでいく**という地獄のような状況に巻き込まれてしまった。


そして、ルミエールがにこやかに言った。

「救世主様、明日の婚約式の準備をいたしますね♡」


「やめてぇぇぇぇぇ!!!!!」


悠真の異世界での運命は、ますます悪化していく――。


悠真は、王城の広間で頭を抱えていた。


「……どうしてこうなった」


つい数時間前まで、ただ逃げ出したかっただけなのに。

なぜか今は、王国の王女ルミエールに振り回されながら、王城の屋根の上にいる。


「救世主様、早く早く!」


ルミエールは笑顔で悠真の手を引いた。


「いや、まず聞きたいんだけど……なんで俺たち、王城の屋根の上にいるの?」


「決まってるじゃないですか!王国の重要な場所を上から見渡しておけば、未来の統治に役立ちますよね?」


「だから俺、統治とかする気ないんだけど!?!?」


悠真は泣きそうだった。


ルミエールは王国の第一王女でありながら、とんでもなく自由奔放な性格だった。

気になることはすべて試したい、危険なことほど面白いというタイプ。


おまけに「救世主様をお助けしたい!」という一心で、悠真を王国中へ引っ張り回していた。


こんなことがしたいと提案してきた。


**・王宮の騎士たちとの模擬戦に巻き込まれる**

**・魔王軍の監視地点まで単独で偵察に行く(悠真を勝手に連れて行く)**

**・街中の市場で市民に混ざって露店を手伝い、結果的に国民の人気が爆上がり(悠真も巻き添え)**


「これで救世主様の評判もさらに上がりますね!」


「いや、上げたくないって言ってるのにぃぃぃ!」


しかし、ルミエールの行動は王国側だけでなく、魔王軍側にも謎の影響を与えてしまう。


**魔王軍の総指揮官・ゼファスの報告**

「……王国の王女が戦場を駆け回り、王国の民の支持を完全に得ている。これは我々への宣戦布告か?」


**魔王軍密偵・ひろの報告**

「救世主殿、あえて王国の軍事行動を混乱させることで、戦乱を長期化させる計画……見事です」


「だからそんな計画ないぃぃぃぃ!!!」


こうして悠真は、「お転婆王女に振り回される」「王国と魔王軍の両方から誤解される」「逃げたいのにどんどん評価が上がる」の三重苦に突入してしまった――。

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