第4話
悠真は王城の裏口で、思いがけない人物と鉢合わせた。
「ふむ……噂の救世主殿、ようやく会えましたな」
長い黒髪をなびかせ、細身の体を包むダークグレーのローブ。
目元を覆う仮面から覗く鋭い瞳が、悠真をじっと観察している。
「……誰ですか?」
「魔王軍の密偵、ひろこだ」
悠真は思わず後ずさった。完全にヤバい人だ。
密偵のくせに名乗ってるし。
「救世主殿は、王国に潜入しながらその内部から崩壊させる計画……ではないのですか?」
「いやいやいや!違うから!俺ただの一般人だから!」
だが、ひろこの目が怪しく光った。
「ほぅ……否定の仕方が巧妙だ。我々の計画を隠すため、あえて一般人を装っているのだな」
「いや、本当に一般人なんだって!!」
悠真は絶望的な気分になった。どうして異世界の人々はこうも誤解が得意なのか。
しかし、ひろこはさらに深い勘違いを繰り広げる。
「戦わずして王国を内部から操り、敵を欺く……これは真の戦略家にしかできない芸当」
「違う!ただ逃げようとしてただけ!!」
「なるほど……“逃げる”ことで敵を油断させる高度な戦術……お見事です」
もはや悠真は何を言っても誤解される運命にあるらしい。
そうこうしている間に、王国の兵士が現れ――
「救世主様!何をしておられるのですか!」
「しまった、王国軍が来たか……」
ひろこは悠真の肩をポンと叩き、不敵に微笑んだ。
「貴殿の計画、我ら魔王軍も参考にさせてくれ」
「だから違うぅぅぅぅぅ!!!」
王国と魔王軍の両方から重宝されるという最悪の展開へ、悠真はまた一歩踏み込んでしまった――。
悠真は王城の裏口で魔王軍の密偵・ひろこと遭遇し、最悪の誤解を生んでしまった。
「貴殿の計画、我ら魔王軍が全面的に支援しよう」
その瞬間、王国の兵士たちが駆け寄ってくる。
「救世主様!そちらの人物は敵軍の密偵ではありませんか!?」
「いや、本当にその通り!だから俺を巻き込むな!」
悠真の心の叫びとは裏腹に、ひろこは堂々と頷いた。
「王国軍に囲まれても動じぬ胆力……さすが救世主殿」
「そういう意味じゃないぃぃぃ!!!」
だが王国側の誤解も負けていなかった。
宰相は冷静な表情で言った。
「なるほど、救世主様は敵軍の動きを完全に把握するため、あえて敵の密偵と接触したのですね」
「違う!逃げようとしてただけ!」
「なんと……王国のために自らの身を危険に晒すとは……!」
悠真の抵抗むなしく、王国側からも評価が爆上がりする。
そこへさらに混乱の元がやってきた。
「ふむ、興味深い」
悠真は振り返ると、黒い鎧を纏った長身の男が立っていた。
「……誰?」
「魔王軍の総指揮官、ゼファスだ」
悠真の頭の中で警報が鳴り響いた。**絶対に関わってはいけない人物ランキング・堂々の1位**である。
「お前か……王国と魔王軍を同時に操る策士というのは?」
「ちが――」
「お前の手腕、我が軍にも必要だ」
悠真は悟った。
もう、どこにも逃げ場がない。
こうして、王国側と魔王軍側の両方から異常なまでの信頼を得てしまった悠真は、“巻き込まれ救世主”としてさらに面倒な運命を辿ることになるのだった――。
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