夢の中の俺
──おはよ。
──え? ああ、うん、ちょっと。変な夢見てさ。
──いや、怖い夢ってんでもないけどさ。
…………なんかさ、気が付いたら知らない町にいて。
あ、夢の中でね。
んでさ、何ていうの? その、普通の夢ってさ、こう、映画を見ているようなっていうか。いや客観的ってんじゃないんだけど、その、設定されたストーリーの中にいるっていうか。とにかく自由に動いたりは出来ないじゃん? でもさ、さっき見た夢の中では自由に動けたのよ。
──メイセキム?
──ああ、へえ、そうそう。そういうこと。
夢の中で、自分が今夢の中にいるって認識してて、それで、自由に動いたり考えたり出来たわけよ。
でもさ、んー、何ていうのかな。ストーリーのない夢、っていうか。自由に動けてもさ、何したら良いかはわかんないわけ。
──あ、いや、空飛んだりとかはしてないなあ。そもそも試してないけど。自由っていってもね、まあ何ていうの? 俺は俺なわけで。なんか、逆に怖くない? 空飛ぶのとか。夢だって認識してなきゃアレだけどさ、こう、認識している時点で逆に『夢の中』って実感がないっていうかさ。
……まあ、とにかく、何したら良いかもわかんなかったから町の中を歩いてみたのね。そしたらさ……なんか、その町のこと、知ってる気がしてきて。
──いや、現実に行ったことはないと思うんだよね。俺、ずっと地元じゃん? だから昔住んでた町ってことはないし。仕事とか旅行とかで行った覚えもないんだよ。もしかしたら昔同じ夢を見たことがあるのかも知れないけど……いや、覚えてないな。
そもそも視力失ってもう二十年だからさ、子供の頃に住んでた町じゃなけりゃ、こんなにハッキリ『視覚的に』思い出せるわけないのに。妙にリアリティがあるっていうか、デティールが細かいっていうか……。知らない町のはずなのに、知っているような気もして……。
ああ、ごめん。何言ってんのか自分でもわかんなくなっちゃった。
──え? ああ……そう、そうなんだよ。その夢の中では、ちゃんと目が見えててさ。ハハ、うん、そうだな。正直、ちょっと嬉しかったな。普段の夢でも映像は見えるんだけど、やっぱりさ、その、自由に動けて自由に見れるってなると、こう、実感が違うよね。『ああ、俺、今目が見えてるんだ』って。
だからさ、なんか、無駄にキョロキョロしちゃったよね。ハハハ。誰にも会わなかったから良かったけど、たぶん、はたから見たらけっこう不審だったかもね。
……ああ、そうだ。あとさ、夢の中でさ、俺は……誰だかよくわかんないんだけど……誰か、女に会わなきゃいけないような気がしててさ…………。
──え? ちょっとやめてよ〜。そんな、こんなさあ、夢の話から浮気疑わないでよ〜。全然そういうんじゃないから。たぶん、その……なんて言ったらいいのかな、夢の設定? っていうかさ、その、夢の中の『俺』に設定されたものっていうか。んー、とにかくさ、よくわかんないけど、誰か、女に会わなきゃいけないってことだけはわかってるっていうか。
──ああ、もちろん、また同じような夢を見て、その、女に会ったら報告するよ。っていうか、その女って君って可能性もあるよね。そうじゃん、思い付かなかった。冷静に考えたら君の可能性高いよね。なんかちょっとスッキリしたわ。
──あれ? 今何時?
──え、やば。
ちょっと急いで食べるね。
いただきます。
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