第7話: 私に何かできたらなあ

 私は、とにかく混乱していました。


 だって、突然女の人の叫び声が聞こえてきたと思ったら、何も言わずに仁井さんが急に家を飛び出したんですから。そりゃあびっくりしました。私も飛び出していった仁井さんを追いかけましたけど、私が通りに出た頃には、すでに車は行ってしまっていて、要するに手遅れでした。せめてナンバープレートさえ確認出来たらよかったんですけど、無理でした。


 私は警察に連絡しました。女の人と男の人がさらわれていった、と。警察の方はすぐに現場に駆け付けてくれました。そして私は知っている限りの情報を伝えました。犯人たちの顔は見えなかったこと、車は大きめで黒い車であったこと、犯人は複数いたこと...。


 警察の人は私の話を聞いた後、現場の周りにテープを張って、捜査を始めました。現場の写真を撮ったり、近所の人たちに聞き込みを始めていました。警察の人から、もう帰っていいと言われましたし、私にできることはもうなかったので、仕方なく仁井さんの部屋にパソコンを取りに行こうとしました。


 「仁井さんたち、大丈夫かな...」


 私はそう呟きながら、階段を上りました。足取りは酷く重かったです。心配という気持ちが、鉄の塊になって心臓の上に乗っかっている感じがしました。階段を上りきって、家の前まで来て、開けっ放しのドアから仁井さんの家に戻りました。


 まだ心臓がどきどきしていたのと、少し落ち着きたかったので、ひとまずリビングの椅子に座りました。仁井さんの部屋は一人で住むにしては、少し広すぎるような感じがありました。ちょっと物が多いようにも思えましたが、きれいに整頓されていました。


 「私に、何かできたらなあ」


 私にはもうできることがありませんでした。警察に任せるしかありませんでした。私が知っていることを警察に伝えただけでも、十分に役に立っているはずです。けど私は、もっと早く仁井さんを追いかけていればと、思いました。もっと早く追いかけていれば、ナンバープレートが確認できたかもしれない。犯人の特徴をもっと掴めたかもしれない。なんなら止めに入ることだって、できたかもしれない。私はなんだか悔しくて、すぐには部屋を出る気になれませんでした。部屋を出てしまったら、なんだか今の状況から逃げてしまうような気が、なんとなくしていたのです。


 窓の外から、警察の人の話し声が聞こえてきました。ドアから冷えた夜風が入ってきました。昼間はそこまで冷えてなくて快適な気温でしたが、今晩は少し冷えています。冷気が肩に当たって、少し身震いしました。


 考えたところで答えは一緒でした。私はできることをやった、情報は警察に伝えてたのだから十分だ、私はそう自分に言い聞かせました。そして、机の上で開いていたパソコンを閉じて持って帰ろうとしました。その時、パソコンの画面が見えました。


 「ここはどこだ」「どれくらい眠っていたんだ」「とにかくここから出る方法を考えないと」「藍水沢にケガがなくてよかった」


 私は目を見開きました。そして私はパソコンを抱えて、部屋を飛び出しました。このパソコンは色んな人の思考を読み取りますが、さっきの画面には「藍水沢」という名前が書かれていました。だからさっきの画面に書かれていたのは、仁井さんの思考なのです。しかもこのパソコンが反応するということは、さして距離が離れていないことを示しています。まだそう遠くない場所に居るのです。


 このパソコンを頼りに、二人を探せる。私は、そう確信しました。

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