第6話: ありがとね
酷く頭が痛い。口に当てられた布から吸い込んだものが余程まずいものだったせいか、それとも後頭部を強く殴られたせいか、とにかく頭が痛い。痛みに顔を歪めながら、僕は目を覚ました。
ぼんやりとした意識の中で、僕は自身に降りかかった出来事を思い返した。藍水沢が男たちにさらわれようとしているのを、止めに入って、それで...後頭部を殴られて...。僕は周囲を見渡した。するとソファーの上に、藍水沢が横になって寝ていることに気づいた。
「藍水沢、大丈夫か!?」
僕はすぐさま傍に駆け寄った。藍水沢の身体には、見た限り特に傷などは無かった。僕は藍水沢の肩を揺すった。
「ん...、ひさ、し...?」
「大丈夫か?ケガはないか?」
藍水沢はゆっくりと目を開けた。藍水沢も意識が朦朧としているようだ。顔は寝ぼけたような感じで、半覚醒状態という感じであった。やはりあの布に含まれていたものがまずかったのか。僕はもう一度問いかけた。
「ケガはないか藍水沢?身体に変なところは?」
「どこも痛くないけど...、その、眠たくて...」
ひとまず藍水沢にケガがなさそうで、僕はほんの少しだけ安心した。藍水沢はしばらく覚醒しないかもしれない、と僕は思った。一旦、藍水沢はこのソファーに寝かせておこう。僕が藍水沢の肩から手を離すと、藍水沢の声が聞こえてきた。
「...あり、がとね。ひさ、し...」
きっと藍水沢は、僕が助けに入ろうとしたことに対して、礼を言っているのだろう。こんな状況で人に感謝してる場合かよ、と僕は思った。藍水沢に感謝されて、嬉しいには嬉しいが、まずは自分たちの置かれている状況を把握しなきゃならない。僕は改めて周りを見た。
「それで...ここはどこなんだ?」
僕は独り言を言った。目の前には藍水沢が寝ているソファーがあって、部屋は4畳半程の広さだった。物は少なく、ソファーが一つあるだけであった。それだけ見れば何の変哲もない部屋であったが、窓にはベニヤ板が釘で何枚も打ち付けてあって、それがこの部屋を異質なものにしていた。あと、ダメもとだが試しておくべきことがある。僕は部屋のドアに手をかけ、ドアノブを回して開けようとした。
「鍵は、掛かっているか」
押しても引いても開かない。やはり僕たちは閉じ込められてしまったらしい。窓にベニヤ板が打ち付けられているのを見た時点で、ひょっとしてそうではないかと僕は思っていた。閉じ込められているとなると、頼みの綱になるのは携帯電話だ。僕はズボンのポケットに手を入れた。
しかし携帯電話はおろか、持ち物一つさえ、どのポケットにも入っていなかった。いつも持っているはずの財布も、キーケースもない。持ち物は全て取り上げられてしまったようだ。
「これは...万事休すか...?」
この部屋から抜け出したかったが、この状況では難しいかもしれないと僕は思った。窓は封じられているし、ドアは開かない。持ち物は無し。部屋に何か物があれが、それを活用して脱出の術を考えるなんてこともできるかもしれないが、それもない。
とは言っても何かは考えなければならない。僕は床に座り込んで、この密室から出られる方法を、とにかく考えた。
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