第2話: やっぱりだめなんですか?
僕はただ茫然としてしまった。
OLが真面目な顔をしたから何を言い出すのかと待っていたら、そのパソコンの使い方を知らないと言い出すなんて。僕は言葉に詰まった。
「えと、でもそのパソコンを持っているのはあなたですよね?機械に疎いんですか?」
「そういうわけではないんです。ただ、何と言えばいいのか...」
OLは髪をいじりながら、言葉を探しているように見えた。そちらも絶句されてしまっては、沈黙が流れるだけなのだが...。少し間が空いてから、OLが言った。
「あの、私は
このタイミングで自己紹介するのか、と思ったが、僕も続いた。
「僕は仁井、
また一瞬の沈黙があった。三枝は少し俯いて、訥々と話し始めた。
「私、本当にこのパソコンについて何も知らないんです。私が知っているのは、このパソコンは他人の思考を読み取れること。それと、人によって読み取りやすい人とそうでない人がいるということ。これだけです。」
三枝は続けた。少し声が力んでいるように感じた。
「私、このパソコンが一体何なのか知りたいんです。どうしてこのパソコンは人の思考を読み取れるのか。このパソコンは誰が作ったのか。なんの目的で作られたのか」
外の客席で一服を終えたサラリーマンが、伝票を持って会計へと向かっていった。そろそろ客の数が減り始めてきた。店内は少しだけ静かになった。
「このカフェにはよく来るんです。もともとお気に入りのお店っていうのもあるんですけど、ここには人が多いですから、このパソコンがよく反応するんです。私は、反応の良い人を見つけて、声をかけるつもりだったんです。そして、私がこのパソコンの謎を知るのを手伝うようにお願いするつもりでした」
店員さんが注文を取りに来た。僕はブレンドコーヒーを注文した。砂糖とミルクは、苦手だからつけない。
「今日もそんな感じで、反応の良い人を探していました。そしたら急にこのパソコンんの反応が良くなって、びっくりしました。ここまでの反応は見たことがありませんでした。そしたらあなたが私の前に座ったから、この人にお願いするしかないと思いました。」
少し陽が傾いてきて、短かった影が伸び始めていた。三枝は少し申し訳なさそうに俯いて言った。
「さっきは突拍子もないことを言ってすいませんでした。その、私も焦ってしまっていたのかもしれません。初めから落ち着いて説明するべきでした」
「いや、いいですよ。そんな」
そりゃああまりに唐突だったから驚いたが、別に謝られるようなことじゃない。僕は話を聞きながら、段々と嫌な予感を感じ始めていた。それは三枝の話を信じきれないというのもあるが、もし本当だとしても、あまり深入りしない方が良いような気がしてきたのだ。それに明確な理由などはなく、ただ何となく、これ以上立ち入ってはいけないのだと感じていた。三枝が言った。
「だから、私がこのパソコンの謎を調べるのに、協力してくれませんか?あなたくらいに反応が良い人はいませんから」
「でも、すいませんが僕は遠慮しておこうかなと思います」
「え、どうしてですか?」
三枝の声には悲しさが籠っていた。三枝は目をまっすぐに僕に向けた。すこし目が潤んでいるように見えた。
「その、三枝さんの話はどうも怪しいというか、思考を読み取れるパソコンなんて気味が悪いですし」
「そんな...」
三枝は肩を落としてしまった。目は相変わらず、僕の目を真っすぐに見つめていた。表情は悲しげであった。よほどパソコンの謎を解きたいようだ。
僕は三枝の目を見つめているうちに、段々と吸い込まれるような気分がしてきた。このカフェに入った時から思っていたが、三枝は端正な顔立ちをしているのだ。席に座った時は、スーツを着ているしどこか近寄りがたい感じがあったが、今の三枝の顔は、その時の印象とは違った。まるで腹を空かせた小動物が餌をねだるような顔で、こちらを見ているのだ。
「いやその、別に三枝さんのことを否定するつもりはないんですよ?ただ、ちょっと僕には難しいんじゃないかなと」
「じゃあ、やっぱりだめなんですか?」
断るべきだというのはわかっていた。だが、
「はあ、分かりました。引き受けますよ」
三枝はやったあ、と言って肩を弾ませた。僕は、ろくでもない話に足を突っ込んでしまったと思った。
自分でもなぜか知らないが、僕は昔から断るのは苦手だったのだ。学生の時は学園祭の面倒ごとを引き受けすぎたし、仕事でもすぐにタスクを抱え込んでしまう。その悪い癖が、今回も出てしまった。
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