第2話 来世こそは美味しいモノを食べたい?!
腕が痛い。
肘に心臓が移動したような痛みに考えが纏まらない。3つのバイトを掛け持ちする俺の今日の夜の予定はコンビニの夜勤だ。
どんなに腕が痛くても、多少の熱が出ていても休めば金は入らない。金がなきゃ、お手上げになる身の俺だ。だから休めない。
うん、それはいつもの事だから仕方ない。
痛くても、頭が痛みで回らなくても気になる事から逃げられない。
どんなに痛くてもボーッとしても【モントール】での出来事が頭の中をぐるぐるしている。
(あの台詞、マジだったのか。いつの間に俺の勤務先まで調べたのか。ヤクザは凄い。)
もし、コンビニまで手が伸びてたら…。
そこまで考えて頭を抱えた。久しぶりの行き止まりだ。どうすりゃいい。
俺は天涯孤独の身で頼る人も居ない。まあ、迷惑掛ける人が居ないだけマシか。
せめてポジティブに考える。
そんな癖だけはこんな時も働いている。
どんなに悩んでも時刻は経っ。そろそろ出勤の時間だ。
しかし腹が減った。
実は昨日コンビニで売れ残りの弁当をこっそり食べてから何も食べてない。このままだと、空腹で倒れるかもしれない。痛くても熱があっても飯は食わなきゃならないが無いなら仕方ないか。
どんな時も飯は食えよ。
それが雑草の生き方だと、教えてくれたのは養護施設の先生だったなと思い出したりしてこりゃ相当頭が混乱してると苦笑いが出た。
過去を振り返るなんて柄じゃない。
気を取り直してガサガサと棚を探すが、何も無い。いつもなら期限間近のパンくらはあるのだが。
あっ、そうだ。月末だった。
今日、給料日だった。でも、【モントール】の店長は振り込んでくれたかな。最悪、罰金を取られるかもしれない。
本当に入金がなかったらマジでやばい。緊急でバイトが要る。
疲れた頭で考えても、腹も膨れないし出勤時間は迫るし。やめだ!!
俺は肘を動かさないように気をつけて着替えた。突き飛ばさて泥の着いた服ではまずいからな。それにしてもかなり痛むから、長引くかもしれない(骨までいったな、こりゃ。)
ため息を堪えて、ドアを開けてコンビニに向かう。コンビニは駅前にあるので、向かう道で帰り支度したサラリーマンと何人もすれ違う。
いつもは気にならないが、あの外人サラリーマンが居ないかキョロキョロしてしまう。
コンビニの近くまで行って、俺は固まった。
居た。
いや、実際は外人サラリーマンの方ではなくレスラー風の大男の方だが。コンビニに前に似合わない服装のレスラー風の大男が仁王立ちしているせいか店長が店の中からチラチラ見てる。
ど、どうすりゃいい?
アイツから逃げれば、バイトは確実にクビだ。いや、もしかしてもう既にクビかもしれない。
冷や汗をかきながら必死にどうすれば良いかを考えていたら…見つかった!!!
「き、き、きき君!!!!」
こちらに気がついた大男が笑顔でこちらに向かってきた。
俺はそのまま回れ右してダッシュした。
吃りのある人らしい大男が気の毒だが、俺の足は止まらない。これは逃げる一択だ。
俺の全身の勘がそう、叫ぶのだ。
いつもなら逃げきれた。いや、どうかな。
レスラー風の大男は、陸上選手真っ青の速さで追いかけて来たからな。
そう現在、捕まった。
あぁ、終わった。ため息が一気に出て身体から力が抜ける。
次に起きる事にビクビクしながら俯いていたが、いつまでも経っても大男は動かない。
あれ?
俺の服の裾をガチっと掴んだまま、まさか立った状態で気絶してるのか??
逃げるチャンスか?!
そう思って少し浮かれた俺の目に、器用すぎる大男の向こうから近づいてくるサラリーマン集団が見えた。
詰んだな。
スーツのヤクザはヤバい。本物だからと聞いた事がある。
落胆した途端、身体から力が抜けて力尽きてその場に座り込んだ。
「はぁ、詰んだか。何もしてないのにな。」
そう呟いた気はしたが、そこからは何も覚えてない。俺も気絶したのだから。
暗転する意識の中で、来世に期待しようと心に決めていた。来世こそは少しは美味しいモノを食べたい…と。
***レスラー風大男の視点***
しまった。
同じ過ちを犯すなんて、何年振りだろう。いや、初体験だったな。
彼と出会ってから初体験の連続だ。
今度こそ、ちゃんと。そう珍しく心に強く誓って顔を上げれば、窓からは月が綺麗に輝いていた。
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