第3話 天国からの地獄行き?!

ふわふわした感触、そして目に映る真っ白な世界。時折、白が輝いて見えるのはさすが天国!

柔らかな感触を楽しんでいたら、突然痛みが走った。


「いたっ!」思わず漏れた声と同時に、隣から「大丈夫か?!」と大声が響いてマジでビビった。


えっ?あのレスラー風の大男もまさかの道連れなのか?ヤクザの世界は厳しいな。


「ヤクザ?天国??

混乱してるかな。ここは帝仁ホテルの特別室だよ。君は怪我をしていたから、ここに運んで治療していたんだよ。その腕は折れているから動かさないで。ほら見てご覧。しっかり腕が固定されているでしょう。」大男の右隣から声がして視線を動かせばそこに白衣の医師がいた。


えっーと、病院じゃないんだよな。

確か帝仁ホテルとか言ってた。ホテルで折れた腕を治療した???


一気に色々言われても大混乱中の俺は、言葉の意味が頭に入らない。ただ言われるまま、とにかく自分の腕に視線を落とした。本当だ。包帯が巻かれて何かで固定されてる。

それに意識を失う前の痛みは、半分くらいまで小さくなって熱も下がっていた。じゃあ、治療してくれたのは本当だな。医者にかかるなんて何年振りだろう。包帯とか贅沢な事普段はしないからちょっと嬉しい。

先生にはちゃんとお礼を言わなきゃ。


「あの、あんまり理解出来てないんですけど、治療して貰ったみたいでありがとうございます。ただ、俺持ち合わせがそんなに無くて、少しだけ支払いを待ってもらってもいいですか?」

頭を下げながら、お願いごとまで口にした。

支払いするには、仕事が必要だ。クビになったばかりの俺じゃかなり待ってもらう事になるけど平気だろうか。


「し、支払いなんて!!こちらが一方的に悪いのに当たり前の事だよ。あの、もしかしてレスラー風の大男って俺の事かな。

君に認識して貰えるのは有頂天になる位嬉しいけど、とにかく自己紹介からさせて欲しい。

ドラエル・大地と言います。ぶつかって怪我をさせてしまって本当に申し訳ないです。出来る限りの償いはさせて貰います。」


お?まさかの凄い提案だ。マジか、そんな幸運があるなんて信じられない。

それにしても、レスラー風の大男の吃りはすっかりなりを潜めて、スラスラ話すと印象が違ってみえる。

大柄な体型は変わらないけれど、瞳の奥にある知的な雰囲気は少し大人びて見える。

もしかして俺より年上かな?


「ププッ、あ、ごめんごめん。君ねさっきから考えてる事が言葉に出てるよ。まああまりの展開に混乱するのは突然だよね。大地さんは多分君よりずっと年上だね。」

隣の医師が笑いながら言って顔が真っ赤になった。

し、しまった。

心の中の声が筒抜けとか、恥ずすぎるだろ。

しかし、それにしてもこの大地って人やたらと俺を凝視するのは何でだ?怒りや憎しみのような負の感情はないと思うから嫌じゃないけど、ちょっと視線を向けにくくて困る。


「えーっと。とりあえず落ち着きます。少し質問があるのですが良いですか?」「もちろん!!」返事早っ。食い気味か!!


ちょっと変な人感のある大地さんは無視して医師の方を見て質問を始めた。とにかくあの外人サラリーマンを思い出すと落ち着かない。それにクビにもなったし。


「あの、大地さんと一緒に居た人はヤクザじゃないんですか?賠償請求すると言われたのが気になっていて。それにあの…。」

クビの事を聞こうとして、ヤクザだった場合が頭を掠めて言葉が止まる。

俺って、本当に迂闊だよな。

ホテルとか、治療とか言ってもヤクザも大物ならそんな事も余裕だろうし。


もしかしたら大地さんはヤクザの大親分かもしれない。

そう、思った途端言葉に詰まって俺はそのまま固まった。何せ昨日【モントール】の店長から怒鳴られクビになった衝撃はかなりのモノだったから。

また、何か失礼があったら次はないのかもしれないし。


暫く間があって、辺りが静まり返った。

そして聞きなれない低い声が横から響いた。


「やっぱり、クビ一択だったな。空を呼んでくれ。」


それは初めて聞く大地さんの冷たい一言だった。途端にゾワッと背筋に冷たいモノが走って身体が小刻みに震える。震えを止めたいけど、恐怖が強くてどうにもならない。

俺、こんなチキンじゃなかったのに。怪我しているせいかな。

それにしても俺の予感が珍しく当たったな、それも悪い方で。

治療からのまさかの崖っぷちとか。

改めて部屋からの脱出経路を探して、ビックリした。何だ、この部屋。


広すぎて出口のドアが見当ら無いとかマジか。俺のアパートなんて出口まで徒歩1歩だよ。

大物ヤクザの富豪とは、こんなに凄いのかと関心しながらも視線を感じて上目遣いで見上げれば、腕を組んで佇む大地さんと目が合った。


ん?

なんで微笑んでる??


あぁ、やべぇ奴に捕まったな。追い込みかけながら相手に微笑むとか。。。無いわ。

こりゃ完全に詰んだな。


心の中の諦めとは別に身体の震えはやっぱり止まらなかった。




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