1−16 アルウィン兄さん 1
アルウィン兄さんこと、アルウィン・クーパーは兄といつも呼んでいるが、本当は私の従兄弟だ。
私と同じ家に住んでいるのと、本人が兄と呼ぶ様にとお願いしてきたので私はアルウィン兄さんと呼んでいる。
アルウィン兄さんは伯父さんの息子らしく頭で考えるより先に、体で行動する様な性格をしている。だけど伯父さんと違って勉強はそれ程苦手ではなく、父さんはアルウィン兄さんが将来男爵を継ぐ事になっても充分務まるだろうと言っていた。
容姿もクーパー家の血を受け継いだ為かとてもハンサムで、将来女泣かせになる事間違いなしだ。というか、クーパー家ってハンサムの遺伝子が強すぎないか?
伯父さんも、父さんをワイルドな感じにした様な顔立ちだし、お祖父さんも肖像画を見る限りとてもハンサムだ。
クーパー家だけでなく、この家の奥様達も皆美女揃いだ。伯母さんはキリッとした目つきで華やかな女性の雰囲気がある美人さんで、母さんはおっとりとしたお嬢様タイプの美人だ。
私は父さんと母さんの遺伝子を受け継いではいないが、神様であるお父様とお母様の遺伝子をバッチリと受け継いでいるので将来有望株なのである。
話は逸れてしまったが、私とアルウィン兄さんはとても仲が良く、昔は良く一緒に遊んだりイタズラして一緒に怒られたりしていた。
しかし、兄さんは次の冬から貴族学校に入学しなければならないので、最近は勉強に忙しい。私もダグザ達の弟子になったので家を留守にする事が多くなった。なので、兄さんと一緒に過ごす時間は食事の時間位となってしまい、一緒に遊ぶ機会はめっきりなくなってしまったのだった。
「アリア。僕もダグザ様の住処に一緒に連れて行ってはくれないか?」
夕食後の自室に帰る廊下で、アルウィン兄さんは私に尋ねてきた。
……アルウィン兄さんから私にお願いとは珍しいな。
兄さんは、私の兄でいる事にプライドというかこだわりを持っていて、自分に常に頼って欲しいと言われる事の方が多かった。
「うーん、私も兄さんのお願いを叶えてあげたいけど、伯父さんや伯母さんは許して貰えないんじゃないかな?」
「アリアもやっぱりそう思うよな……」
アルウィンは残念そうな表情でため息をついた。
私の知る限り、アルウィン兄さんは伯父さん達にあまりわがままを言った事はなかった。おそらく、男爵家次期当主としての自覚や私の兄というプライドなどが相まってそうなったと思うが、私はもうちょっと子供らしくてもいいと何時も思っていた。
「ダグザは私から頼めば許してもらえると思う。伯父さん達には私からもお願いしてみるよ。兄さんのためだしね」
アルウィン兄さんは感動した表情で私を見つめ、両方の手を握って感謝の気持ちを示してきた。
これでもし伯父さん達の説得に失敗したら、後が大変そうだなと思うと、ついため息が出てしまった。
翌日の夕食の時、昨日アルウィン兄さんから頼まれた事を伯父さん達に話してみた。
「子供達だけでダグザ様の屋敷に行くのは危険ではないか?」
伯父さんの懸念も当然だ。
オウルニィの町の外はキボリウム山脈に隣接しているので魔物の多発地帯である。そんな町の外に無防備な子供達が出る事は自殺行為そのものだ。
私は武器を使った訓練なんかはやっていなかったが、アルウィン兄さんは五歳の頃からずっと訓練をしてきた。
『オウルニィの戦鬼』と呼ばれた伯父さんの素質を受け継いだのか、騎士達が皆アルウィン兄さんの剣の腕前を褒め称えていた。それでも伯父さんは「まだ精進が足らない」と言ってアルウィン兄さんを魔物狩りに連れて行く事はなかった。今迄だったら伯父さんの決定に不服は無かっただろうが、私がダグザ達の弟子になり町の外に出る許可が降りてしまった。それをずるいと思う子供心は仕方がないと思う。
そこでアルウィン兄さんは作戦を考えた。妹と一緒ならば町の外に出られるのではないかと。
妹の師匠であるダグザ様に未だ挨拶が出来ていないのは些か問題なのではないかとか、兄として妹の魔術の訓練内容を把握しておかないと貴族学校に行った時に笑われるとか、もっともらしい理由をつけて伯父さん達に許可を迫ったのだ。
アルウィン兄さんの心情を察した父さんはアルウィン兄さんを擁護し、兄さんの援護射撃をしてくれた。
伯父さんは私と父さんの説得に負け、アルウィン兄さんがダグザの住処に行く事を許可したのだった。
だがそこで問題が発生した。次は伯父さんや父さんが一緒について行くと言い出してしまった。
子供達だけでキボリウム山脈の奥地に行くのだから保護者がいた方が良いのではないかと言ってきた。
まあ、確かにそうかもしれない。
どうしたものかと考えながらアルウィン兄さんの方を見てみると、明らかに不満げな顔をしている。
その表情を見てアルウィン兄さんの考えていた事がようやく理解できた。
アルウィン兄さんはダグザの住処に行きたいというよりも、ダグザの住処という比較的安全な所でちょっとした冒険を楽しみたいのだ。
……全くしょうがない、ここは兄さんの為に私が一肌脱ごうじゃないか。
「ダグザもいるし、オウルニィの町の近くよりも比較的安全だと思いますよ?それに兄さんはこの冬に貴族学校に行くのです、たまには羽目を外して思いっきり遊ぶのもいいんじゃないですか。貴族学校に入ったらそういった機会も少なくなると伯父さんも前に言っていたじゃないですか」
「だが、アルウィンがダグザ様の前で何か粗相をするかもしれないしな……」
「そんなこと言ったら、私だって粗相をするかもしれません。他の貴族の前よりも、私で慣れているダグザの方がよほど安心できますって」
伯父さんはまだ納得できないようだ。
貴族の場合、よほど親しい友人か親戚のお宅にしか子供を連れては行かない。
ましてや、ダグザは貴族どころかこの国の王様よりも地位が高い。そこで自分の子供が何かをしでかしたらと気が気でないだろう。
「クリスもいますし大丈夫ですよ。それに、伯父さんや父さんは仕事が溜まっているじゃないですか」
私の件で伯父さんや父さんは領主から度々質問書が届いていた。国王との面会の前に私に関しての詳細を知りたいのだろう。
流石に領主からの手紙を無視するわけにもいかず、伯父さん達は渋々同行を諦めた。
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