第2話 隊舎の中の怪談
俺が横須賀での教育を終え――そこについたのは夏真っ盛りのころだった。
はるばる横須賀まで小隊長が迎えに来てくれた。真っ黒に日焼けした精悍な人だった。
駅までトラックが迎えに来てくれた。朝鮮戦争で使われたのかと思うほど――古びたトラックだった。
運ばれた先が平屋の古びた隊舎だった。
古風ではあったが――ボロボロではない。しっかりと現役で使われ傷みもない。
別棟としてトイレがあったが――そこが今回の怪談の舞台だ。
トイレのサイズも大きかったし、頭と足が見える便座のトイレだったので、やはりアメリカ式っぽかった。一時期――進駐軍の基地だった時もあったので、その名残だろうか?
そこで――夜中――トイレに起きた同期が『トイレから軍歌を歌う声が聞こえたんだよ~~~』と、恐ろしげに話しているのを聞いた。
そいつのベッドのまわりに集まってそんな体験話をしていたのが聞こえた。
しかし俺の体験したのは――まったく別物だった。
たしか――日曜日のことだったと思う。
――俺は戦闘服の洗濯をしていた。泥がついているだけだから、水を貯めておいてジャブジャブやればそれでOK。
そしてジャブジャブやっているときだった――。
『うお~~~~~~!』
恐ろしいほどの大音声で唸りを上げたやつがいた。
それは隣の洗濯機室から聞こえた。
俺は何事かとすっ飛んでいってみたが――そこには二人の同期がいるだけで――しかも何事もなかったかのように――洗濯に勤しんでいる。
そのあまりの平穏さに拍子抜けし――なにも聞けずに元いたところへもどった。
俺の聞いた声は、通常の精神状態では出せない、切羽詰まった悲壮感満杯のだった。
――まさに突撃の声だ――
それは――アメリカ人の出せる声ではなく――日本の兵隊の突撃の声にしか聞こえなかった。
悲しい叫び――にしか聞こえなかった。
ここは正確な場所は不明だが――昔の軍隊の兵舎があったらしく、いろいろ不思議なことが起こった。
――俺は兵舎で寝ていた。
ちょうどそこは壁を隔てて外になっており、壁に頭を向けて寝ていたのだ。
すると――何時頃だったろうか?
コツコツと足音が響いてくるのが聞こえた。
それはもう金縛りのあとで――夢のなかからその世界へ飛んだのかも知れない。
俺は体験上――それが幽霊だわかった。
だんだん近づいてくる。
――死ぬかと思った――それほど怖かった。
それは隊舎の向こうから歩いてきて――近づいてくると――このまま俺に気づかず行って欲しかったのだが――だいたいこういうのはこんな展開になるのだろう。
俺の寝ている真後ろ(隊舎の外)で立ち止まり――クルリとこちらに身体を向けた。
息を殺して耐えていた俺にとって――この瞬間が限界だった。
声にならない声を出して――俺は必死に現実世界へと逃げ帰った。
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