第2話 運命の日

あれから一年がたった。ついに貴方と私の運命が決まる日だ。


「じゃあ行ってくるよ」


貴方は一言だけ言い、私をいつもより強く抱きしめた。途端に私は涙がでそうになった。

もしかしたら、今日が貴方を見る、話す、ハグする最後の日になるかもしれないと思うと胸がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。

私は愛してると伝え、貴方を見送った。

この日から私の新たな生活が始まる。


貴方が任務に出て三ヶ月、私は貴方のいない孤独な生活を送っていた。

いつも二人で生活していた空間は広く感じ、寂しさが日に日に増していく生活を送っていた。

するとある日のお昼時、私と貴方の住む家のインターホンが静かな部屋に響き渡る。


(ピンポーン)


「宅急便かな、?」


私はインターホンのモニターを恐る恐る覗く。

 (誰、、、?)


「まさか、貴方、、、?」


心の中で貴方の笑顔を思い浮かべながら、急いでドアに駆け寄る。そしてドアがゆっくりと開く。

そこに立っていたのは、ボロボロの男二人だった。貴方の姿はそこらを見渡しても見当たらない、。


肝心の男二人は重い表情をし、下を向いて黙ったまま。すると二人組の一人が人のサイズをした木箱を持ってくる。その男はとても大柄で筋肉質。顔の下半部が髭に覆われていた。


その木箱を見た瞬間、私は嫌な予感がMaxに達した。


「え、これ何、、、?」


目の前の木箱に目が釘付けになり私は一歩後ずさり、頭が真っ白になった。

髭面に私は強く問いかける。


「彼は、!彼はどこなの、!ねぇ、答えてよ、!!」


私は涙が溢れ、声が掠れていた。

二人組の沈黙と暗い表情が胸に、冷たい刃を突き刺すように感じた。

すると髭面はゆっくり顔を上げ、涙が少し滲んだ目で私を見つめる。やっと開いた髭面の声は地を這うように低く、震えていた。


「すまない、。お前の彼氏は、、。」


髭面はそういうと言葉を切るように、私から目線を逸らし、箱をもう一度持ち上げ私の足元にそっと置く。


私は心臓が止まりそうになり、膝が崩れそうになる。手が震える。木箱に触れる勇気がない。

髭面がそんな私の代わりに木箱の蓋を一瞬躊躇したが開いた。

そこに横たわっていたのは紛れもない、貴方だった。


「嘘、。約束したよね、?生きて帰ってくるって、!」


私は声を上げて泣き崩れる。髭面ともう一人はただ黙って立ち尽くし、肩を震わせる。

もう一度木箱の中を覗くと、また涙が溢れた。私はただ泣き叫ぶことしかできない。そんな貴方は無惨な姿で木箱に納まっていた。

いつも私と組んでいた大好きな右腕は鋭利な刃物で切断されたかの様な断面をしていた。

片目はつぶれ、いつも握っていた君の左手は指が親指と人差し指しか残っておらず、掌には刃物が貫通したかのような跡があった。

そして寝るときに頭を置いて枕の代わりにしていた貴方の逞しい胸は背中にかけて太い何かが貫通した痛々しい傷口があった。


「痛かったよね、苦しかったよね、辛かったよね、。」


貴方のその無惨な姿を見て、貴方を思う言葉であふれた。貴方の気持ちを考えると涙が静かに頬を伝い、あの頃の貴方を思い出してしまう。木箱の中の貴方の姿を見て二度と貴方と会うことも話すことも、イチャつくこともできない現実を実感した。

そして私は冷たくなった君の頬に触れる。いつも温かかった貴方の手、

貴方の笑顔、貴方の声、。貴方のすべてが遠く感じられて、心が張り裂けそうになる。


「私待ってたのに。ひどいよ神様、。なんで彼なの、?」


つい最低な一言を言ってしまったかもしれない。

涙がまた滝のように流れ、貴方の遺体を抱きしめ泣き叫ぶ。

二人は立ち尽くしている。髭面の目にも涙が滲んでいるが、言葉を発する力すら失ったように見える。

そして髭面は何かを思い出したかのように目を少し見開き、胸元の戦闘ジャケットのポケットを漁りだす。

私は何を出すのかと、ものすごい悲しさ、寂しさ、喪失感でいっぱいの中思っていた。そして髭面は一枚のA4サイズの少し泥で汚れた紙を取り出し口を開いた。


「奴がお前に残した手紙だ。奴が生前【もし俺が死んだらこの手紙を

お前に音読して渡してくれ】と俺に頼んできたんでな。読み上げる」


髭面の声はすごく低く、威圧感があるものの低い声特有の落ち着きがあった。


「では、読み上げる。」


髭面は「ゴホン」と咳き込み、貴方が私に残した手紙を読み上げる。


次回3話 貴方の手紙



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