第2話 戦士
「ここだな」
赤城と青依は火黒の資料室に入り、戦士についての記述がある古文書を探した。
「どこにあんだよ…」
赤城がボヤいた時だった。
「宮熊くん、もしかしてあれじゃない?」
青依が指差した方を見ると、1冊の古文書があった。
「光ってる…確かにあれかも!」
「もしかして、私たちの紋様に共鳴して光ってるのかも!」
赤城は棚から古文書を回収し、表紙を捲った。
遠い昔、我々は人々を災いから救うべく十二支をはじめとする獣の力と色彩の力を手にし、彩(いろ)と獣の戦士と呼ばれた。
災いは我々と対をなす星と宝玉の力を持つ闇の戦士達によってもたらされる。
この世の生きとし生けるすべてのものが眠りについた時が始まりの時、戦士では無い人々は目覚める事ができない。
闇の戦士達は憎しみに飲み込まれた悲しき者達である。
我々は封印することが精一杯であった。
封印は永久ではない、闇の戦士達はいずれ目覚めの時が来てしまうだろう。
この先、我々の血を引く者の中から闇の戦士達を倒し、彼らの魂を解き放つ事が出来る物が現れることを切に祈る。
「つまり今が戦いの時って事…?」
「闇の戦士も元は私たちと同じ人間…何か悲しいね…」
二人は古文書の内容を話しながら集合場所の食堂に入った。
「よかった〜うちらだけやったらどないしようか思ったわ〜」
「2人も放送で呼び出されたのか?」
食堂には坊主頭の大柄な男性と、金髪の小柄な女性が先に来ていた。
「私たちは葉酉先生の講義中だったので葉酉先生の指示でここに来ました、法学部3年の子津青依、子の戦士です」
「俺、文学部3年の宮熊赤城です、無事と言うことは…お二人も…その…戦士ですか?」
赤城は恐る恐る自らの刻印を見せた。
「君は熊の戦士なんだな!俺は獣医学部4年の丑窪金之助(うしくぼ きんのすけ)、丑の戦士だ」
金之助は肩を見せると、牛の刻印が顔を覗かせた。
「ウチは工学部2年の未辻舞黄(ひつじ まお)、未の戦士や」
舞黄は胸元を指さして羊の刻印を見せた。
「俺、今日こうなるまで戦士の事とか全然知らなかったけど、戦士って何人もいるんですか?」
赤城はふと浮かんだ疑問を口にした。
「獣の戦士は干支の戦士と干支やない動物の刻印を持つ戦士がいて、干支の戦士は代々戦いの事や力の使い方を教わるんや」
「でも干支のじゃない獣の戦士は必ず次の代が生まれるとは限らなくて、戦士の血を引いてるって知らない人も多いから宮熊くんが知らなかったのも無理はないの」
青依と舞黄の話を聞いて赤城は今まで腑に落ちなかった事が全て1本の線で繋がり、納得した表示を浮かべた。
「今では干支の戦士の家系の人でも刻印が出ない事があるから気にする事はないわ」
赤城達の話にもう1人落ち着いた雰囲気の女性が加わった。
「挨拶がまだだったわね、医学部6年の卯野桃歌(うの ももか)です」
桃歌が挨拶をするとその場にいた皆がそれぞれ挨拶をした。
桃歌の後にも続々と無事だった者達が集まり、人数は11名となった。
「火黒、無事だった人達は全て揃った?」
「いや、足りないな…俺が把握してる限りではあと3人いるはずなんだが…」
火黒と赤城が話していると再び扉を開く音がして小柄な女性と目隠しをしたスーツ姿の大柄な男性が入ってきた。
「申し訳ありません、お待たせ致しました、理事長の辰美紺凪(たつみ かんな)です」
「私は理事長の秘書をさせて頂いております、葉酉透流(はとり とおる)です」
「無事な方はもうおひとかたいらっしゃいますが、訳あってわたくしの判断で別の場所に待機していただいています、勝手をお許しください」
理事長と秘書と聞き、集まった者達は姿勢を正した。
赤城と火黒を除いて。
「理事長、ご無事で何よりです」
「葉酉先生もご無事で何よりです、放送で呼びかけるのは懸命な判断でしたね」
「恐れ入ります」
紺凪は火黒の気遣いに労いの言葉で応えた。
「透流兄ちゃん!!秘書だったんだ!!」
「お久しぶりですね赤城くん、理事長には長きに渡ってお世話になっていますよ」
赤城は透流にまるで兄弟のように声をかけ、集まった者達をザワつかせた。
「み、宮熊くん!?なんでそんなラフに話せるん!?理事長の秘書さんやで!?」
「赤城…だから場所を考えろと言っただろ…」
火黒は呆れた表情で事情を知らない皆に説明を始める。
「驚かせてすまない…俺と透流は一卵性の双子の兄弟で、赤城と俺達兄弟は従兄弟同士なんだ」
「ですので、私の事はお気軽に名前でお呼びください」
「葉酉先生、1つ質問よろしいでしょうか?」
「卯野、どうした?」
桃歌は火黒と透流の関係を聞いて真っ先に疑問を飛ばした。
「本来一卵性の双子は体格差が殆どありませんが、戦士の力の影響でしょうか?」
「それは私がお答えしましょう、お察しの通り私達の体格差は戦士の力の影響を受けています」
「俺は酉の戦士の力に加えて闇を操る黒の力があるが、その影響で身長が伸びなかったんだ」
「私の透視や心の声が聞こえる透明の力は制御が利かないのでこうして目隠しをしないと体調を害してしまうことがあるのです」
「よく分かりました、不躾な質問に丁寧に答えて下さってありがとうございます」
火黒と透流の回答に桃歌は納得し、丁寧に謝辞を伝えた。
「ですが、皆さんがいざとなった時に私の素顔が分からなくては不便な事もあるでしょう」
透流が目隠しの布を外すと火黒と瓜二つの顔に限りなく白に近い薄い水色の瞳が姿を現し
た。
「透き通るような綺麗な瞳ですね」
「ありがとうございます、ここにいる皆さんも美しい心をお持ちですので私もどうやら皆さんの前では目隠しをする必要はないようで安心しました」
透流は安堵の笑みを浮かべた。
「皆さん、よろしいでしょうか?」
紺凪は集まった学生達がある程度挨拶を終えた頃を見計らって再び口を開くと、皆が紺凪の方を向いた。
「恐らくこの戦いは長丁場になるでしょう」
紺凪に続いて火黒も口を開く。
「文献通りなら敵も特殊な力を持っている、いちばん危険なのは1人になる事だ」
「大学の敷地内に少し広めのシェアハウスがあります、わたくしが理事長に就任したころから虫の知らせが続いたので建設しました、必要最低限生活出来る設備は整っていますので暫くは皆で行動した方が良いでしょう」
「自宅に必要なものを取りに行くのは構わないが、必ず2人以上で動くように」
紺凪と火黒の呼びかけに皆が無言で頷いた。
「この際ですから素の話し方でいきましょう、それから呼び方もいっその事名前呼びに致しませんか?無理にとは言いませんが、特殊な家柄故にあまり苗字が好きでない方もいらっしゃると思いますから」
こちらも全員が賛成し採用となった。
「では、シェアハウスまでご案内します」
情報を共有するためのグループLINEを作り、いつでも連絡を取り合えるようにした後に紺凪の案内で一同は敷地内にあるシェアハウスに向かった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます