彩(いろ)と獣の戦士達

中岡はな

第1話 もたらされた眠り

代わり映えの無い日常に飽き飽きしていた俺は、何か変わったが起こる事を望んでいた。


そんなある日、俺の日常を一気に変えるような大きな変化が訪れた。


俺の望みとは違う形で…


―第1話 もたらされた眠り―


夏のいつもと変わらぬ朝、とある大学の構内を1人の青年が欠伸をしながら退屈そうに歩いていた。

「クマおはよー、今日も退屈そうだな」

「おはよ、お前はこのクソ暑い日も朝から元気だな」

クマと呼ばれた青年の名は宮熊赤城(みやくま あかぎ)、21歳。

小説家を志して宮城県から上京し、都内の大学に通う3年生。

上京したての頃は故郷の田舎とは違った都会の景色に目を輝かせ充実した日々を過ごしていたが、時が経ち少しずつ飽きてきてしまい代わり映えのない日々に退屈を感じるようになり、最近は学業よりも目前に迫った夏休みをどう過ごすかを考えていた。

「クマぁ、お前今日は葉酉の授業寝るなよ?夏休み棒に振っちまうぞ? 」

「あいつが面白い話のネタ持ってきたら寝ねぇかもな、補習にはならねーように上手くやるさ」

赤城は友人と軽口を叩き、講義がある教室に入った。

(今日もつまんねぇな…寝よ)

最初の方こそ寝ずに聞いていた赤城だったが、長々と続く話が退屈になり机に顔を伏せ、すやすやと眠り始めた。

-フフッ…皆眠ったわ、愚かな人間ども…もう自力で目覚めることはできない-

-ぬかるな、戦士どもは時が経てば目覚めるぞ-

(…誰だ?…夢?)

赤城は夢の中で誰かが話している声を聞いた。

-戦士っつっても所詮人間だろ?-

-殺っちゃえばなんの問題もないって-

(戦士…?)

-とりあえず戦士ではない人間どもは適当な所に纏めておけ、このまでは邪魔でならぬ-

-分かったわよ、あぁ、早く戦士どもと戦いたいわぁ〜-

(さっきから何言ってんだ?話が読めない…)

赤城は現実味のない会話に頭が混乱した。

-闇の戦士が目覚め、戦いの時が来た-

(今度は何だよ…)

-獣の力と彩(いろ)の力を持つ戦士達よ、闇の戦士を倒し人々を解放せよ-

(おい!待てよ!どういうことか説明しろよ!)

「はっ……」

声が突然遠くなり、赤城は目を覚まし、ガバっと顔を上げた。

「はぁっ…はぁっ…夢か……え…?」

顔を上げた先を見ると、同じ教室で講義を受けていたはずの学生がおらず、気味の悪い静けさに包まれていた。

「何だ…これ…」

ガタッと音を立てて椅子から立ち上がると、立ち上がる音がもう1つ聞こえ、振り返ると小柄な女性と目が合った。

「あっ!!人いた!!」

女性は安堵した表情で赤城に駆け寄ってきた。

「よかった…私1人だけじゃなくて…」

「俺も1人じゃなくて安心しました」

2人は一安心してほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。

「俺、文学部3年の宮熊赤城です」

「私は法学部3年の子津青依(ねづ あおい)です、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、他に人がいるか探しましょう」

「待て、闇雲に探しても時間を食うだけだ」

教室を出ようとした赤城と青依の後ろから2人に呼びかける声がした。

「葉酉先生!」

「火黒!お前も無事だったんだな」

声の主は赤城達が通う大学の古典文学担当の教授、葉酉火黒(はとり かぐろ)だった。

「学内では「葉酉先生」と呼べ言うとるじゃろ!」

「今は子津さんしか居ないんだからいいだろ別に!」

赤城は火黒とのやり取りに目が点になっている青依に気付く。

「火黒…まずは子津さんへの説明のが先じゃね?」

「そうだな…」

火黒も赤城の目配せで青依の反応に気付く。

「子津さん、驚かせてごめん!俺と火黒はいとこなんだ」

「あ!そういうことなんだ!」

「ただ、学内では今みたいに混乱する人が出るから「葉酉先生」と呼ばせていたんだ」

赤城と火黒のやり取りに驚いていた青依も真相を知って納得した様子だった。

「話を戻そう、他に無事な学生や職員は居ると思うが闇雲に探してもすれ違いになりかねん」

「確かにそうですね…」 

「相手も無事な人間を探し回ってるかもしれないしな」

「そこでだ、今から校内放送を使う」

火黒は校内放送で無事な学生や職員を呼び集める提案をした。

「集まる場所はどこにしますか?」

「集まる場所、学食にしないか?この状況…何かすぐに終わらない感じがするんだよな…教室で寝てる時変な夢見たし…」

「変な夢?」

赤城は夢の内容を話すと火黒と青依は目を丸くした。

「もしかして…宮熊くん、これ見えてる?」

青依は自らの左頬を指さした。

「白いねずみがいるよね、痣かなって思ってふれないようにしてたんだ」

「これね、痣じゃないの」

「お前にも似たようなのがあるだろ?」

「ああ、この熊のこと?」

火黒に指摘され、赤城は左側の鎖骨を見せると黒い熊が顔を見せた。

「これね、体のどこかに同じような刻印がある人にしか見えないの」

「講義中に寝てた事については今回だけは聞かなかった事にしてやるとして…やっぱりお前も戦士の血を継いでるんだな」

「なぁ…夢の中でも聞いたけど、戦士って何なの?」

「そうだな、お前が知らないのも無理はないな…俺の資料室に戦士について記録してある古文書があるから行ってみろ、俺はその間に無事な奴らを呼び出す」

「わかった」

「私も行くよ」

赤城は青依とともに火黒の資料室に向かった。



続く

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