第23話 「声ノ気配、見守ル者ト集ウ灯」

【五番隊隊舎・屋根の上】


鈴虫の音が風に乗り、

月光が白く瓦を照らしていた。


その静かな屋根の上――

気配も霊圧も完全に消し去った姿で、

平子真子は、ふたりの会話をじっと聞いていた。


下では春陽と昂大が並んで座り、

淡々と、けれど心からの言葉を交わしている。


そのやりとりに、真子はひとつも言葉を挟まない。

ただ、目を細め、静かに微笑んだ。


(……ほんま、ええ子らになったなぁ)



【その時・昂大の斬魄刀が】


昂大の腰に佩かれた刀が――

微かに、ほんの微かに、鞘の中で“霊圧の粒”を放った。


見えないほど淡く、

しかし確かに、

夜風に溶けるようにして、“何か”が動いた。


昂大はそれに気づかない。


だが、屋根の上の平子だけは、

その“わずかな揺れ”を、見逃さなかった。


(……お前の刃、

もうそろそろ“目ェ覚まし”たがってるんとちゃうか)


(楽しみにしとるで、昂大)



【談話室・夜の静かな灯】


その頃、談話室では

温かいお茶の香りが漂っていた。


時美と紫音が並んで座り、

小さな菓子をつまみながら静かに語らっていた。


紫音「……俺な、春陽の始解見て、

ほんまに“背中任せてええ”って思ったんや」


「でも、それ以上に……

あいつが俺のこと、本気で守ろうとしてくれたん、伝わってきてな」


「……ちょっと、泣きそうになったわ」


時美は、笑いながらも優しい眼差しで頷く。


時美「紫音が“誰かの盾”になったこと、

私は誇りに思うよ。……ちゃんと、守ってきたんだね」



【そこへ、春陽と平子が現れる】


ふいに扉が開き、

春陽と、その後ろに平子が顔を出した。


紫音「よーおかえり。何しとったん?こっちは反省会やで」


春陽「こっちは“未来の話”しとったんや。昂大と、な」


時美がふと平子と目を合わせ、

微笑む。


「真子、屋根の上から聞いてた?」


真子「……バレとったか。

まぁ、俺も気になってしもたんや。ええ話やったからな」


春陽「うわっ、見られてました!? めっちゃ恥ずかしいですやん!」


紫音「隊長の“感知範囲”、えぐいからな。そらバレるって」



【夜の終わり・みんなで静かに】


談話室の灯は、

騒がしさよりも、

安心と信頼であたたかく揺れていた。


ふたりの新たな一歩、

見守る者のまなざし、

届きかけた声――


静かに、でも確かに、“未来”が動き始めていた。

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