第24話 「ただいま」と「おかえり」

【副官室・夜更け】


隊舎が静まり返った頃。

談話室も消灯され、隊士たちはそれぞれの部屋へと戻っていった。


副官室の明かりだけが、まだふわりと灯っている。


椅子に座る時美のもとに、

音もなく平子が入ってくる。


時美は、彼の気配にすぐ気づいたが、

特に振り返りもせずに、

「……お疲れさま」と小さく呟く。


平子「ふふ……俺のほうが言う台詞やと思たけどな、“お疲れさん”て」


時美「お互い様、だよ」



【ふたりだけの時間】


平子は何も言わず、

時美の隣の椅子に腰を下ろす。


しばらく、ふたりとも何も喋らない。

ただ、時美が静かに湯呑みを差し出した。


「……お茶、冷めてるかも」


平子「冷めたくらいが丁度ええ。

俺とお前の“時間”みたいやろ?静かで、ぬるくて、でも落ち着く」


時美は、ふっと目を細めた。



【平子のぽつり】


「……ほんま、ええ隊になったな」


「時美がこうして“見守れる”ようになったってことが、

一番の証拠やと思うわ」


「せやから、俺ももう少し“後ろ”で見とこうかなって思ったりするんやけど――」


「……やっぱ俺はお前の“隣”がええな」


時美は、小さく笑って。


「……ずっと、そこにいてね。

今日も、“帰ってきてくれてありがとう”」


切実な言葉は闇に深く沁み込んでいった。



昂大の夜、「まだ知らぬ名ヲ、抱イテ」



【昂大の部屋・深夜】


部屋の明かりは落とされ、

月の光だけが、障子越しに静かに差し込んでいた。


昂大は布団の上に座ったまま、

腰に置いた自分の斬魄刀を見つめていた。


言葉にはならない想いが、

胸の奥でずっと渦巻いている。



【独白】


(……春陽さんの“護羽”。あれを見て、

正直、焦りもしたし、羨ましくもなった)


(俺も、“聞こえない”わけやない。

なんとなく、何かがそこにある気はしてる)


(けど、いざ刀を抜いても、名は浮かばん。

声も、姿も――まだ、届かへん)


(……それでも)


(今日、春陽さんが言うてくれた言葉、

“今のお前が一番持っとる”って)


(あれが、妙に心に残ってる)



【視線を落とす】


ゆっくりと、鞘に包まれた刀に手を当てる。


(俺の中にも……いつか“名前”が咲くんやろか)


(――いや、咲かせたい。

斬るためやない。

守るためでも、ただ強くなるためでもない)


(“五番隊の一席”として、胸張って名乗れるように)



【小さく呟く】


「……いつか、ちゃんと聞かせてくれ。

俺の、刃の名前を」


窓の外で、ふわりと風が揺れた。


それに呼応するように、

斬魄刀の霊圧が――ほんのわずかに、鼓動のように“トクン”と反応した。


昂大は、それに気づいたようで――

微かに、微かに笑った。



誰かの斬魄刀が“目覚める”音は、

静かな夜の中に、そっと重なっていく。


平子と時美の間にあるぬくもり。

春陽が届けた言葉。

紫音が背負った誇り。

空斗が記した信頼。


そのすべてが――昂大の心に、火を灯していた。


「まだ知らぬ名よ。

俺は、お前を“迎える”準備をしてる」


そう呟くような夜が、静かに更けていった。



護りたいもの【完】



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護りたいもの(身内用) @tokimi15

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