第14話 「白夢ハ見守リ、風ヲ記ス」

【焚き火の残り香・少し離れた位置】


空斗はふたりから少し離れた位置に座っていた。


手元には、霊圧測定器。

けれど今は、何の数値も確認していない。


ただ、手の甲に滲んだ切り傷と、

ほのかに焼けた袖を見つめていた。



【内心の独白・空斗の静かな視点】


(……戦いの中で、

俺は一度も“誰かの前”に出ようとは思わなかった)


(俺の役目は、“読み解くこと”。“分析すること”。

誰かが傷つく前に、最善を導くこと)


(でも――)


(今日、紫音が倒れたとき、春陽が震えて立ち尽くしたとき、

俺は……自分でも驚くくらい、

“前に出た”)


(怖かった。

あの一歩が、俺の命を奪う一撃になるかもしれないって)


(でも――)


(“それでもいい”って、一瞬だけ思った)



【ふたりの会話を聞きながら】


紫音「てか、なあ春陽……

お前、あんとき泣いとったやろ」


春陽「泣いてへんわ……ちょっと霊圧が目にしみただけや!」


紫音「言い訳が昭和やねん……」


空斗の口元が、少しだけ緩んだ。


その会話が、

命を賭して戦った男たちのものだとは思えないほど、

あたたかく、穏やかだった。



【そっと言葉を差し込む】


空斗「……君たち、さ。

戦いのあととは思えない会話してるね」


紫音「お、やっと喋った。空斗ってほんま“いるだけで安心感”やけど、

おらんような空気感も出しよるよな」


春陽「分析魔人が感情喋ったら雨降るわ。今日は天気ええのになぁ」


空斗「……ひどい言われようだな」



【空斗・目を閉じて静かに語る】


「でも、君たちの姿を見て、

少しだけ“変わった”よ、俺の考え方」


「“霊圧のねじれ”とか“魂の構造”とか――

そればっかり考えてた。

誰かが傷つかないように、理屈で護ろうとしてた」


「でも今日、

君たちは“魂で護った”んだ」



【紫音、目を伏せて】


「……そんなかっこええ言い方されると、

照れるわ。ほんまに死ぬかと思ったけどな」


春陽「俺もや。

けど、あの時、空斗が真っ先に俺らの前に立ってくれたやろ。

あれ、めっちゃ心強かった」


空斗「……意識してなかったけど、

俺も“君たちを失いたくなかった”んだろうな」



【しばしの沈黙・夜の音】


焚き火の燃え残りが、パチ、と音を立てる。


風が少し吹いて、

白夢の柄が小さく揺れた。


空斗はその揺れを見ながら、

まるで自分の中にある何かを確かめるように、

ゆっくりと続けた。



【空斗・言葉にならない感情】


「……紫音、春陽」


「もしまた次に、“この任務”みたいな事態が起きたら」


「今度は、俺が“真っ先に動く”から」


「俺も、君たちの“後ろ”だけにいるつもりはないよ」



【春陽・静かに笑う】


「……そんときは、

俺も“後ろ”に立っとるで」


「一緒に、包むわ」


紫音「俺は“右”に立ったる。

ほな、空斗が“前”。春陽が“後ろ”。

俺が“横”。……完璧やろ、フォーメーションや…!」


空斗「……まったく、

その適当な配置でも安心できるのが、君らの強さだよ」



それぞれの刃は違う。

違うけれど、“想い”は同じだった。


誰かを護ること。

自分で在ること。

そして、共に立つこと。


白夢は静かに、

胡蝶繚斬は優しく、

護羽は温かく――


焚き火の消えかけた灯の中で、

三人の魂は、確かに“隊”として結ばれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る