第13話 「癒エル傷、語ラレル想イ」

【夕陽、傾く野営地】


模倣体との戦いが終わり、

空気がようやく“静けさ”を取り戻していた。


だがその静けさには、どこかあたたかさがあった。


春陽は、ゆっくりと紫音の隣に膝をつき、

《護羽(まもりばね)》を静かに構える。



【羽衣、再展開】


「――陽結の羽衣」


白金の羽が舞い、

紫音の肩から腹にかけて深く刻まれた傷を、

まるで“覆い隠すように”包み込んでいく。


霊圧がやわらかく波打ち、

体温が戻るように、紫音の指先がピクリと動く。


紫音「……っく、うぉぉ、痛てて……」


春陽「無理せんでええ。

……ちょっと、まだ痛みは残るはずや。けど……もう心配いらん」


紫音「そやけどな、春陽……お前な……」


「めっっっっっっちゃカッコええとこ見せとるやないかい……!!」



春陽、苦笑


「……何言うてんねん。

お前が斬られて、倒れて、俺、ようやく動けたんやで?」


「そんなん、カッコええやなくて……ただの遅れや」


紫音「違うわアホ。

あれや、“遅れてきたヒーロー”やろ。

しかも刃が優しすぎる癒し系やで。惚れてまうやろ普通」


春陽、ふっと目を伏せて


「……俺な、ほんまは、

まだあの瞬間がずっと頭から離れへん」


「お前が斬られて、血を流して、

それでも俺の名前呼んで――笑うたやろ」


「“俺の番やろ”って、そう言うてくれたやろ……」


「その言葉がな、俺の中で、

全部溶かしてくれたんや」



紫音、静かに目を閉じる。


「……春陽。

俺、怖かったんやで」


「お前が動かんかった時な、

“また誰かが自分責める未来”が、よぎった」


「けどな、そんなの、春陽やないって、

俺は知っとったから……信じたんや」


「ほんまに信じとったから……命、張れた」


春陽、声を震わせ目を伏せながら言う。


「……そんな風に言うてくれるお前に、

俺は、どう報いたらええんやろな……」


「刃を持って、“やっと今”、

俺は仲間のために、ちゃんと立てたんや」


「それが全部――お前が、

“俺のために傷ついたから”やと思うと……悔しくて、しゃあない」


紫音、春陽の方を少し見てポツリ。


「でも、痛みってな、

誰かの“本気”を、形にするんやと思うわ」


「俺の傷、たぶん一生残るで」


「でもええねん。

これ、俺が春陽の背中を信じた証やから」



【春陽、手をそっと包むように当てて】


「俺も、お前のその傷、護るわ」


「たとえもう癒えても、

お前の“想い”だけは、忘れへん」


「この刃は、仲間を護るためにある。

そやから、これから先も――

俺は、お前らの背中、包む刃になる」


紫音、微笑みながら春陽を見つめる。

その目はとても暖かく。


「ほんまに、お前が“始解”してくれて、よかったわ」


「俺な、実はずっと、

“春陽さんって、ほんまはめっちゃ強いんやろな”って思っとってん」


「その通りやったわ。

……てか今、マジでちょっと惚れかけたで」


春陽「やめぇや!気まずいわ!

お前そんなこと真顔で言うたら、俺顔真っ赤なるやろ!」



【ふたり、焚き火の残り香の中】


小さく笑い合いながら、

言葉の端々に、命の重みと信頼が混ざっていた。


血と痛みの上で芽生えた“繋がり”は、

誰にも模倣できない――たったひとつの、魂の証だった。



癒されたのは、傷だけじゃない。

言葉にできなかった迷い。

名を呼べなかった恐れ。

それら全部が、もう春陽の中にはなかった。


そして紫音もまた、

“春陽ならきっと護ってくれる”と、

自分の心に誇りを持てていた。


そうして――夜は、ようやく静かに、深く、優しく更けていった。

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