第15話 「語ラウ背中、信ジル瞳」

【流魂街・三日目の夜/野営地】


焚き火は、もうほとんど灰になっていた。


地熱と残り香だけが、

まだほんのりと夜気を温めている。


空斗は静かに測定器を閉じ、

紫音は傷をかばいながら背もたれに寄りかかり、

春陽は小さく丸めた羽織を枕にして空を見上げていた。



【沈黙のあと、ぽつりと空斗】


「……五番隊って、不思議な隊だよな」


春陽「うん。俺も、最初配属されたときは思ったわ」


「“隊”っていうより、ちょっとした“家族”みたいやなって」


紫音「せやな。

隊長も副隊長も、あんなんやから、隊士が変に遠慮せぇへんのよな」


「おまけに、俺みたいなんが五席で許されるあったかさや」


空斗「“甘い”んじゃなくて、“信じてる”んだよ。

みんなが、ちゃんとやってくれるって。

だからこそ“距離が近い”んだ」


春陽「それって、めっちゃ幸せなことやと思う」



【紫音、空を見ながら】


「……この任務、俺ちょっと怖かったんや」


「副隊長も隊長もおらん。

俺と春陽、空斗で全部やらなあかん。

もし、俺らがあかんかったら、五番隊の名前に傷つくって思ったら……」


春陽「けど、お前、最後まで前に立ってくれたで」


空斗「……そうだな。

紫音が最初に“踏み出した”から、

俺も踏み出せた。春陽も動けた」


紫音「そっか……」


「……なら、ちょっとくらい、誇ってええか?」


春陽「誇ってええ。俺が保証する」


空斗「俺も。お前が背中を張ってくれたこと、絶対忘れない」



【春陽、少しだけ声を落として】


「……副隊長、喜ぶやろな。

俺ら、ちゃんとやってきたって言うたら」


空斗「隊長も、顔には出さないけど、

絶対“褒める”目をするよ。……あの人、すごくわかりやすいから」


紫音「……帰ったらさ、

副隊長にまた“甘味連れてけ”って言われるやろか」


空斗「間違いなく、言われるな」


三人、少しだけ笑って、

そしてまた、静かに空を見上げた。



【その頃・五番隊本部/夜】


時美は、副官室で書類の山に囲まれながら、

ふと手を止めた。


静かな夜。


霊圧の調子に、微かに“温かい波”が届いた気がした。


時美(……春陽、始解できた?)


“なぜだかわかる”。

そんな霊の脈が、胸の奥でふるえていた。



【平子・隊長室】


真子は、読んでた書類を置いて、

窓の外を眺めていた。


ふと、口元だけで微笑む。


「……アイツら、ようやっとるやろな」


「そんでもって、時美もな。

ああやって何も言わへんけど、心配しとる」


「……せやけど――

“信じとる”から、待てるんよな、時美は」



【時美・窓の外】


「……信じてるよ、みんな。

ちゃんと、みんなで帰ってきてね」


時美は、窓の外に夜空を見上げて、

そっと、手帳を閉じた。



戦いを経て、

語られる絆と未来。


隊という枠を越えて、

“想い”で繋がれた三人と、

“信頼”で見守るふたり。


その魂は、確かに“護られていた”。


静かに夜は明けようとしていた。

彼らの心に、“一番まぶしい朝”が、もうすぐ来る。

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