第6話 エリート獄卒、初めての討伐依頼


「ふぅ……この辺りでしょうか。」


“ナキラの森”らしき森の入口を見つけた頃には、日がすっかり頭上までのぼっていた。


 まだ辺りの暗い早朝に出発したというのに、もう昼前ですか。

 思ったより遠かった。


「なるほど、昼ごろがゴブリンを狩るのにちょうどいい時間帯なのですね。」


 たしか……このあたりか……と手元の地図と目の前の景色を代わるがわる確認する。


「もう少し奥の、森のはずれあたりですね。」


 昨日、アイシャという受付嬢から渡された地図には、ナキラの森の西のはずれにバツ印がつけられている。


『このあたりにぃ、洞窟がありまぁす!その洞窟のわきに集落が確認されてるはずですっ!もしいなければ洞窟の中に移動した可能性もあるので、注意して観察してから討伐してくださぁい!』


 昨日言われたことを思い出す。


「まずは……洞窟ですね。」


 目印の洞窟を探すべく、西へ向かい森の中に入っていく。


 数分だろうか、歩を進めていくとかすかに「ギャギャギャ」という耳障みみざわりな鳴き声が聞こえてきた。


「この声、でしょうか?」


 鳴き声のする方へ静かに近づいて、木に身を隠しながらのぞき込む。


 そこには、小鬼のようなフォルムをした深緑の身体の生物が数十匹、宝石や食料を囲んで騒ぎ立てている様子が広がっていた。


「ほう……あれが、ゴブリンですか。」


 ゴブリンには魔石がないそうだ。

 単純に致命傷を与えてしまえば討伐できるとのことだった。


「まずは様子見ですね。」


 足元に転がる、こぶしの半分くらいしかない石を拾い上げ、


 ───ビュンッ


 手先に神経を集中させ、いちばん近いゴブリンの眉間を狙って石を投げつける。


 ───グシュ


 鈍い音をたててゴブリンの脳漿のうしょうに丸い穴があき、遅れて緑の体が倒れ込む。


「ギャギャ!?」

「グァ!グァ!」


 異変に気づいたまわりのゴブリンたちが騒ぎ始め、石の飛んできた方向、すなわち私の方向に一斉いっせいに顔を向ける。


「身体はやわらかいんですね。やりやすい。」


 身を隠していた木の枝を1本ポキリと折ると、刀よろしく構えて一気にゴブリンの前におどり出た。


 ───ヒュッ

 ───グシャ


「ギャギャァァア!!」

「グギャギャ!?ギャッ!」


 ───ヒュッ、ザンッ


「グギャァ!!」


「木の枝では心もとなかったですね。」


 ゴブリンを6体ほど裂いたところで、枝がミシッとひび割れてしまった。


 手元にある壊れかけた木の枝を見つめていると、好機チャンスとばかりに両側からゴブリンが飛びかかってくる。


「ギャギャァア!!」

「グギャァッ!!」


「……おっと」


 すばやく1歩後ろに下がり、木の枝を持つ右手だけ前に出す。


「ギャギャアァァ!!」

「ギギギャッ!!」


 空中で進路を変えられなかったゴブリンは枝の両端に刺さり、お互いに持たれあうようにして重なると、力なく枝にぶらさげられた。


 ───ぽきり。


 2体のゴブリンを支えきれなかった枝はそこで真っ二つに折れてしまった。


 枝で撃退なんて、いかにも冒険者らしくて良いかと思いましたが───


「仕方ありませんね。ここでは嵩張かさばりますが。」


 ふところから地獄槍そうを取り出して、ひと振り。


 元の大きさに戻った槍を、さらにワラワラと集まってきたゴブリンたちに目掛けて半円状に振るう。


 そうして何振りかしたころ……


「ここはこれで終わりですか。」


 辺りに立つのは私1人になり、足元には折り重なるようにゴブリンの死体が積み重なった。


「討伐証明は左耳……魔石はナシ……でしたね。」


 そうして18個ほどの耳を切り取って麻袋あさぶくろにしまう。

 ついでに、ゴブリンの溜め込んでいた宝石も。


「18体ですか。」


 集落というにはあまりにも少ない。

 おそらく、アイシャが言っていた『洞窟の中にも集落を広げている』ことが原因だろう。


「先に進みますか……。」


 ───結果から言うと、洞窟内には何もなかった。


「おかしいな。」


 不審に思いながら洞窟を進むが、そこは行き止まり。


「なるほど。ゴブリンたちに埋め立てられていますね。」


 ドゴォッッッ!!


 行き止まりの壁に槍のを叩きつけると、轟音をたててすぐに崩れ去った。


 開けた視界の先には、またしても、森。


「さっきの場所はナキラの森の西の果て、ではなかったようです。

 ……さっさと集落を見つけて討伐しなければ日が暮れてしまいます。」


 少し急ぎ足で西へ西へと向かう。

 そうして3里ほどいったところに、先程と同じようなゴブリン集落を発見する。


「もう要領はバッチリ、ですからね。」


 慣れた手つきでゴブリンを討伐し、左耳を回収。

 しかし───


「ここも21体ほどですか……。」


 あまりにも数が少なすぎる。


「もっと西、ですね。いったい集落はどこにあるのでしょう。」


 近くの洞窟に入ってみるが、同じように埋め立てられてしまっている。


「ゴブリンというのは案外厄介かもしれません。こんなにも集落が広いとは……。

 あの受付嬢はカンタンだと言っていたのに。油断しました。」


 またしても洞窟の壁を破壊し、さらに西へ。

 日が傾いて、太陽の半分が地平線に隠れた頃。


「おおっ!」


 私はやっとの思いで“探していた集落”を発見した。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……。60体ほどでしょうか。

 奥の洞窟にも気配がします。やっと見つけました……!ゴブリン集落!」


 これがCランク依頼とは。世の冒険者は相当に腕が立つ人間の多いことでしょう。

 1人で1日のうちに終わらせるには大分骨が折れました。


「はやく終わらせて帰らなくては、宿に着くのが夜中になってしまいます。」


 ───ビュンッ


 地獄槍を展開させる。


「今日は祝杯を、と御三方に約束しているのです。」

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