第4話 エリート獄卒、冒険者登録する
「では、お名前から伺います。」
すぐにエドワードたちが冒険者登録の申請をしてくれ、とんとん拍子に事が進んでいく。
「……ヤシャ。」
「ヤシャさんですね。次に年齢はおいくつですか。」
年齢……。
「おそらく、862兆年と数年かと。」
「……はっ?」
受付の女性が
「ええと……ご年齢は分かりますか?」
そうか、人間的な見た目で答えなくてはいけなかったのか。
「年齢……正確にはわかりませんね。」
「そうですか。……おそらく、18歳ほどでしょうか。
一応、18歳で登録しておきますね。」
「はぁ。ではそれで。」
「次に、出身地を教えてください。」
「地獄です。」
受付の女性はまたしても訝しげに顔を上げる。
「ジゴック……?聞いたことのない地名です。
すみませんが、どちらの国でしょうか?」
どちらの、とは……。方向のことだろうか。
「……下の方の。すごく下の国です。」
「下、ですか。最南端の自治国家ならカムガール共和国でしょうか。
わかりました、カムガール共和国・ジゴックで登録します。
ジョブやスキルの鑑定を行ったことはありますか?」
「ありませんね。」
「はい、では
最後に、ポジションの希望はありますか?」
「ポジションですか……楽なのは
「トーカツジゴック……?コクジョー?
ええと……ポジションというのは前衛職か後衛職か支援職の3つから選んでいただきたく……。」
ポジションというのは担当地獄のことではなかったのか。
……気を抜くとすぐ地獄気分になってしまう。気をつけなくてはいけないですね。
「なるほど、では前衛職です。」
「前衛ですか!お若いし、細身ですが……わかりました。
のちほどランク試験で模擬戦をしてもらいますので、心の準備だけお願いします。」
ひととおり質問を終えた女性は「では呼ばれるまですこし待っていてください」と言い残し、裏へと記入した紙を持って行った。
「おいおい、ヤシャ。お前、ずいぶん遠くから来たんだな。」
ぼーっとその辺に貼ってある紙を見ながら言われた通り待っていると、私の申請の様子を見ていたらしき3人がわらわらと寄ってきた。
「カムガール共和国なんて遠方からどうやってきたんだ?」
「ジゴックなんて街も初めて聞きました!それに、色々知らない言葉もあって……」
「やっぱ独自の文化が形成されてんのか?よくカムガールから出てこれたもんだぜ。」
「カムガール共和国、ですか。」
勝手に勘違いされた出身国、カムガール共和国はどうやら相当遠いところらしい。
あまり知られていない土地なら好都合かもしれませんね。
「カムガールっていや、魔界に1番近くて鎖国してる国っていうじゃねぇか。」
「そうですよ!謎に包まれた
「あー、カムガールのことは正直あまり分かりません。
まあ、地獄は毎日叫び声がうるさいですかね。」
……ウソは言っていないですよ。
「な、なるほど。共和国内でも鎖国状態ってワケか?いやー、つくづく謎だらけだな、ヤシャは。
……おっ、エレナさんが戻ってきたぜ。」
「お待たせしました。ヤシャさん。
仮登録は完了です。ジョブは帝都、もしくは協会で鑑定できますから紹介状だけ先に書いておきますね。
では、 魔力とスキルの鑑定をしますからこの水晶を軽く掴んでください。」
戻ってきた受付の女性はちょうど手のひらが余るくらいの大きさの水晶を差し出した。
「かるく、掴む……。」
私は言われた通りに水晶へゆるく手を添えた。
───シーン……。
「あら、おかしいですね。」
「?何も起こらないようですが。」
「もう少し手に魔力を集める感じで掴んでみてください。」
手に、魔力?
「魔力とはどのように集めるのでしょう?」
きょとん。
きょとん。
頭上に『??』を浮かべた私と受付の女性が顔を見合わせる。
「あー、エレナさん。」
そんな私たちの間に、見かねたという様子でエドワードが割ってはいる。
「ヤシャはこの辺りの事情にからっきしみたいなんだ。
俺達も驚くほど何も知らないし、記憶も
そう説明されると、エレナさんと呼ばれた受付の女性は納得した顔で頷き私に向き直る。
「魔力は私たち人間の体内と、この空気中に存在しています。それをうまく運用して魔法を使うわけです。
魔力を運用するのには元々の魔力量や、訓練、才能など色々な要素が影響します。」
とはいえ、と続けるエレナさん。
「魔力をまったく保有していない人間というのは見たことがありませんから、ヤシャさんも練習すれば魔力の流れを感じることができるはずです!
とにかく、今日は数値検査だけですから、力を手のひらにぐっと集める感じで水晶を強めに掴んでみてください。」
どうやら、力を集める感覚と“魔力を集中させる感覚”は似ている、ということらしい。
「……わかりました。」
───ぐぐ……バリィ!!
きょとん。
きょとん。
ふたたび、頭上に『???』が浮かんだ顔で私とエレナさんは顔を見合わせる。
「オイオイオイ、規格外かよ。」
フリーズする私たちの間に今度は興奮気味にガイが割り込む。
「……規格外、ですかね。」
正直、“魔力”が集まる感覚など全くなく、ただ単に水晶を握り潰してしまった気がするのだが。
「これは……初めてです。一応、魔力適正はS+、スキルは鑑定不能になってしまいましたので空欄にしておきます。」
エレナさんは唇をワナワナと震わせながら早口に説明する。
「帝都に行くことがあれば、そこで改めて精密鑑定をしてもらうことをオススメします。
では、私はこれで。このあと教官が実践試験の案内に来ますから、それまでお待ちください。」
ここまで一息に言い放つと、返事も待たずにくるっと踵を返して裏へと駆け込んでしまった。
「あー、あれはビビったな、エレナさん。」
ガイが苦笑いで肩を組んでくる。
「ビビる、ですか。……握力にでしょうか?」
「握力ぅ?なんでだよ。ヤシャの魔力量に、だ。」
どうやら、魔力が多い人として認識されてしまったようですね。
弁明に困っていると、2階につながる階段から
「やあ!キミがヤシャくんかな?」
「げ、あいつが試験官かよ。」
「お知り合いですか?」
あからさまに嫌そうな顔をするガイと、ひぃ!と言いながらエドワードの後ろに隠れるイワン。
「あー、まあな。実力派でめっぽう強い。そのうえ、思想が強い。」
「思想、ですか。」
「あぁ。魔術師系の支援職を見下してるんだよ。」
だから、後方支援のイワンが怯えているのですね。
「おおかたヤシャの魔力量がケタ違いのくせに前衛希望と聞いて、叩きのめすために降りてきたんだろ。」
「なるほど……。」
地獄にもいましたね。
等活地獄の料理小鬼を見下す獄卒が。
彼らは繊細な
筋肉と力だけが全てだとする奴らは何も分かっていない。この試験官の青年もそういう類なのだろう。
「魔力量が多いなら後衛か支援だろう。なぜ前衛を?」
地獄の日々を懐かしく思っていると、青年が筋肉を見せつけながら問いかけてくる。
「なぜ、ですか。……私は叩きのめすのが得意だから、でしょうか。」
そういう
「ふはっ。叩きのめす、か。
その細い身体で魔物と戦えるか、この私メジュームがしかと見届けてあげよう。」
メジュームと名乗る試験官が鼻で笑う。
「さぁ、ヤシャ。地下の練習闘技場に案内する。ついてこい。
これは、教育が必要な新米獄卒、ですね。
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