『クーポン・ジャパン』
やましん(テンパー)
『クーポン・ジャパン』
『やましんさま、そこを左に曲がって、三丁目商店街を通っていきますと、2分近道になり、三丁目クーポン20点が、貯まります!』
『やましんさま、三丁目の途中から右に入って、なりきん横丁を抜けていただきますと、ナリキンクーポンが50ポイント加算されます。』
『政府広報です。一丁目の政府広報版をよんでください。ナイマンポイントクーポンが加算されます。』
『あ、やましんさま。そこから、地下に入ってくださいますと、ごき連邦からサービスポイントがつきまして、一ヶ月ごきが侵入しませんよ!』
『もう、うるさいなあ。なんとかしたいけど、頭のなかで鳴るんだから、手に負えないなあ。まったく。』
世界の大国が手を結んで、世界連邦ができたはよいが、頭のなかに、様々なものが、直に介入してくるようになったのには、さすがのやましんも手を焼いていた。
もちろん、音楽鑑賞や、楽器の演奏、仕事中、試験中、授業中、診察中など、介入を止めるモードはあるが、止めっぱなしにすると、デジタル監視庁から呼び出され、はでに叱られる。
常時開放、が原則である。
しかし、最大の懸念は、政府にコントロールされる危険性であった。
政府は、そんなことしませんよ!
と、言ってはいたが、先頃、『週刊たまてばこ』が、実は市民を殺し屋にして動かす実験を政府がしていた、と、スッ羽抜いたのである。
かなり、詳細な資料が添付されていた。じつは、その市民は自ら志願して検証に当たっていた学生だった。
反体制派の教授を殺害しようとして逮捕されたのだ。
本人は壁の向こうに消えたが、データはしっかり残っていたので、政府は謝罪せざるを得なくなった。
『コンピュータープログラムのミスでした。』
しかし、これを切っ掛けにして、トコ・ズーレ首相は、一気に突っ走ったのである。
『国民総ロボット兵士化計画』である。
🍵
荒川博士は、茶飲み友だちだったやましんに告げた。
『時らきた。敵は富士山にあり。』
『はあ? なんだいそれは。』
『詳しくは言えないけど、富士山の地下に、政府の秘密基地があるんだ。おいら、キューさんと楽しい仲間たちとともに、レジスタンスを開始する。あなたは、足手まといになるだけだが、しかし、仲間である。これをあげよう。一見、補聴器で、実際そうなんだけど、政府や民間の脳内放送を遮断するんだ。うまく使って、生き延びなさい。』
荒川博士は、そのあと、消えた。多摩川沿いの会社は、閉鎖されていた。
まもなく、国民は激しく異常をきたした。
みなが、保安隊に押し掛けて、兵士になった。
社会の様子は、激変した。
軍靴の音が響き渡った。
やましんは、メンタルに不調があるとの診断を得ていたので、幸い相手にされなかったのだが、そのかわり、社会からは街八分状態になった。
年金は、止まらなかったが、半減された。
先は、もう、見えている。
やましんは、ついに、地下に潜ったのである。
『ごき同盟、やましん派』を立ち上げたのである。
それは、長い長い、圧倒的に絶望の世界と思われた。
『まったく、いつのまに、人の家の地下に、こんなの作ってたんだ。』
やましんは、呆れた。
ごき、ちゅう、わん、にゃん、その他、各種生き物が、やましんち地下の秘密基地に、結集していたのである。
ごき大将とは、既知の間柄である。
『やましん、クーポン、貯まったか?』
ごき大将が確認してきたのであった。
『クーポンだけは、地上でもまだ有効なんだ。』
『あわ、そうか。クーポンを一番沢山貯めた人は、そうりになれるんだ。』
『ひと、とは限らないごき。ジャパンの全生き物が、クーポンを貯めてきたごき。荒川博士の協力があったごき。トコ・ズーレの保有クーポンを越えたごきな。いまこそ、われらが天下を取る。』
人類の社会は、間も無く、他の生き物たちに、合法的に、乗っ取られたのである。
🐤🐤🐤
平和が帰ってきていた。
しかし、荒川博士は、まだ帰ってきてはいなかった。
会社は、娘さんが再開したようである。
博士がどうなったのかは、娘さんも掴んでいなくて、今のところわからないが、富士山麓で、大爆発があった、とのニュースが流れていた。まあ、博士のことだ、生きているだろう。
政府は倒れ、ついに、ごき大将が、天下を取ったのである。
人類は、野にくだったのである。
『クーポン・ジャパン』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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