第14話:武道のカオス・トリックスターと掟破りの神眼
:武道のカオス・トリックスターと掟破りの神眼
「おいマサル、お前、さっきから空手の試合で柔道の受け身の練習みたいな動きしてるけど、まさか…」
「フン、ケンタ、まだ分からんか。真の武の極意とは、流派や形式に囚われぬこと!空手道も柔道もテコンドーも、元を辿れば一つの『武』!ならば、その技を融合させることこそ、最強への道!」
「それはお前が勝手に言ってるだけだろ!単にルールを無視したいだけじゃねえか!」
「神眼」マサルの偽審判騒動から数日。各武道団体から厳重注意(という名の事実上の出禁)を受けたはずのマサルだったが、彼の「武の探求(という名の奇行)」は止まらない。今日は、別の地区で行われる、さらに小規模で、良くも悪くもユルい雰囲気の合同武道演武会に、なぜか「特別演武・異種格闘術の可能性」という謎の肩書で参加することになっていた。どうやら、マサルが持ち前の口八丁手八丁で主催者を丸め込んだらしい。
演武会のトップバッターは、空手の型。
厳粛な雰囲気の中、選手が力強い型を披露する。観客(主に選手の家族と、なぜかまたしても巻き込まれた俺、ケンタ)が固唾を飲んで見守る。
型の終盤、選手が気合と共に正拳突きを放った、その瞬間だった。
「そこだぁっ!」
突如、演武スペースの隅からマサルが飛び出し、正拳突きを放った選手の腕を掴むと、電光石火の速さで、鮮やかな一本背負いを決めたのだ!
ドスン!という鈍い音と共に、空手選手が畳に叩きつけられる。
「い、いっぽーーん!」マサルは、柔道の試合さながらに高らかに宣言し、ガッツポーズ。
会場、騒然。
「な、何だ今の!?」
「空手の演武中に投げ技!?」
空手選手は、何が起こったのか理解できず、畳の上で目を白黒させている。
主催者が慌てて駆け寄る。「ま、マサルさん!これは一体!?」
マサルは、胸を張り、答えた。
「フッ、驚いたかね?これぞ『実戦空手』!相手の突きを捌き、瞬時に投げに転じる!これこそが、武の神髄!我が『神眼』は、既存の空手の限界を見抜いたのだ!」
「いや、限界とかじゃなくて、ただの乱入と暴行…」俺の心の声は届かない。
続いて、柔道の選手の演武。
得意の投げ技をいくつか披露した後、選手が深々と礼をした。拍手が起こる。
「うむ、なかなか見事な投げであった。だが、柔の道は投げだけにあらず!」
マサルが、どこからか持ち出した数枚の瓦を畳の上に並べ始めた。
「真の柔道家ならば、己の肉体を極限まで鍛え上げ、その力を一点に集中させることもできなくてはなるまい!さあ、この瓦を割り、お主の『剛』の力を見せてみよ!」
「え?瓦…ですか?柔道で…?」柔道選手は困惑している。
「何をためらう!これぞ『柔剛一体』の教え!さあ、我が『神眼』が見守っているぞ!」
マサルに半ば強要される形で、柔道選手は恐る恐る瓦割りに挑戦。当然、慣れない瓦は割れず、選手は痛そうに手を振っている。
「まだまだ修行が足りんな!ならば、お手本を見せてやろう!」
マサルはそう言うと、「オリャー!」と奇声を発し、瓦に渾身の正拳突き…ではなく、なぜか頭突きを敢行!
ゴツン!という鈍い音と共に、瓦は割れ…ず、マサルが「ぐえっ!」と呻きながら頭を押さえてうずくまった。会場からは失笑が漏れる。
そして、トリを飾るのはテコンドーの華麗な足技演武。
選手が、目にも止まらぬ連続蹴りを披露し、会場を沸かせる。
「素晴らしい!そのスピード、その高さ!だが、真の戦場では、足技だけでは生き残れん!」
マサルが、低い姿勢で選手に忍び寄る。
選手がフィニッシュのハイキックを放とうとした瞬間、マサルはその軸足めがけて、アメフトばりの強烈なタックルを仕掛けた!
「うおっ!?」
テコンドー選手はバランスを崩して転倒。すかさずマサルは、その選手の腕を取り、流れるような動きで(本人比)腕ひしぎ十字固めを極めたのだ!
「ギブアップ!ギブアップか!?」マサルは、総合格闘技のレフリーのように叫ぶ。
テコンドー選手は、何が何だか分からないという顔で、痛みに顔を歪めながら畳を叩く。
「よし、一本!これぞ『アルティメット・テコンドー』!打撃、投げ、関節技、全てを使いこなしてこそ、真の格闘家!我が『神眼』は、常に進化を求めるのだ!」
会場は、もはやカオス。
空手家は投げられ、柔道家は頭突きで自爆した男に困惑し、テコンドー選手はタックルからの関節技で悶絶している。
主催者は顔面蒼白で立ち尽くし、観客は爆笑とドン引きの狭間で揺れ動いている。
「どうだケンタ!これぞ俺の『マサル流・異種武道融合術』!既存の枠にとらわれない、まさに武のルネッサンスだ!」
演武(という名の破壊活動)を終え、汗だくで、しかし実に満足げな表情のマサルが俺に話しかけてくる。
「お前…それはもう…ただのメチャクチャだろ!異種格闘技じゃなくて、異種迷惑行為だ!空手で一本背負い!柔道で瓦割り(自爆)!テコンドーでタックルからの腕ひしぎって!もう何が何だか!」
俺は、もはやツッコむ気力すら失いかけていた。
マサルは、誇らしげに胸の「神眼」の刺繍をポンと叩いた。
「フッ、凡人には理解できんだろうな。だが、これが『武を極めし者』の境地よ。次は…そうだな、弓道で近接戦闘術を披露するか、あるいは相撲で空中殺法を見せてやるか…我が『神眼』は、常に新たな可能性を見据えているのだ!」
俺は、もう何も考えたくなかった。
ただ、マサルの「武の探求」が、日本の武道界(の片隅の、さらに隅っこ)に、計り知れない爪痕(主に悪夢)を残したことだけは、間違いなさそうだった。
そして、マサルの「神眼」が次に見据えるのは、一体どんなカオスなのだろうか…
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