第12話:鉄球のトリックスターとヘッドハンター(物理)
:鉄球のトリックスターとヘッドハンター(物理)
「おいマサル、アメフトのヘルメット、ちゃんと被れてんのか?前後逆だったりしないだろうな?」
「ケンタ、舐めるなよ!俺の空間認識能力はGPS並みだぜ!それに、このゴツいプロテクターとヘルメット…最高じゃねえか!誰が誰だか分からん!これぞ匿名性の鎧!まさに俺のためにあるようなスポーツだ!」
「匿名性を悪用する気満々じゃねえか…」
俺、ケンタの不安は的中の一途を辿っていた。ラグビーでの「スクラムの亡霊」事件から数週間。マサルはどこからかアメフトの草チームの助っ人話を見つけてきて、案の定「格闘球技PART2!血が騒ぐぜ!」と二つ返事で参加を決めたのだ。ルール? 「ボール持って走ってタッチダウンだろ?あとは気合!」とのことだ。もう何も言うまい。
試合開始。マサルはディフェンスラインの一員としてフィールドに送り出された。理由は簡単、「お前はとりあえず、あの丸いボールを持ってるヤツに突っ込んでいけ!話はそれからだ!」というコーチの雑な指示によるものだ。
「うおおおお!人間ミサイル発射!」
マサルは奇声を発しながら、ボールキャリアーでもない相手オフェンスラインの選手に猛然と突進。当然、ピーッ!と笛が鳴る。
「オフサイド!」「不必要なラフネス!」
開始早々、立て続けに反則を取られ、チームは大幅な罰退を食らう。
「マサル!お前、ボール持ってるヤツに行けって言っただろ!」コーチがサイドラインから怒鳴る。
「これは戦略的威嚇です!相手の戦意を削いでるんですよ!」マサルはヘルメットの中で胸を張る(見えないが)。
そんな珍プレー好プレー(主に珍プレー)を繰り返していたマサルだったが、第1クォーター終盤、ついに彼にとって(そしてアメフト界にとって)歴史的な瞬間が訪れる。
相手チームの攻撃。敵のクォーターバック(QB)がパスを投げようとドロップバックする。マサルは、相変わらずボールそっちのけで、なぜか目の前にいた相手チームのワイドレシーバー(WR)と睨み合っていた。
「お前のその派手な色のグローブ、気に入らねえな…」
「はあ?お前こそ、その変な走り方、なんなんだよ!」
WRが言い返した瞬間、QBの手からボールが放たれた。パスは、そのWRの頭上をやや越え、少し後方へ。
その時、マサルの目がキラリと光った(ように見えた)。
「チャンス!」
マサルはWRに狙いを定めるのではなく、なぜかそのWRのヘルメットに狙いを定めた!
「くらえ!必殺、ヘッド・スナッチ!」
マサルは、信じられないほどの俊敏さ(火事場の馬鹿力か?)でWRに飛びかかり、そのヘルメットを両手でガシッと掴み、力任せに引っこ抜いたのだ!
「なっ!?お、俺のヘルメットがああああ!」
WRが素っ頓狂な声を上げる。その手には、ボールではなく、自分の髪の毛を押さえるしかなかった。
そして、そのWRの頭上を越えて落ちてくるはずだったボールは…
なんと、マサルが引っこ抜いたヘルメットの中に、スポッと吸い込まれるように収まったのだ!
「な、なんだと!?」マサル自身も驚いている。
ヘルメットの中に入ったボール。これを、果たしてインターセプトと呼んでいいのだろうか?
いや、マサルにそんな逡巡はない!
「うおおおおお!俺の超絶キャッチだ!見たか、ヘルメット・イン・ワン・キャッチ!」
マサルは、敵のヘルメットをまるで戦利品のように掲げ、その中にボールが入ったまま、タッチダウン目指して走り出した!
時が止まった(ように感じた)。
フィールド上の選手たち、コーチ陣、数少ない観客、そして審判までもが、何が起こったのか理解できず、呆然とマサルを見ている。
敵のWRは、頭を押さえて「俺のヘルメット…ボールが…え?え?」と混乱している。
審判が、我に返って猛烈な勢いで笛を吹く!
ピピーーーーーッ!ピピーーーーーッ!
「デッドボール!デッドボール!アンチ・スポーツマン・コンダクト!パーソナル・ファウル!」
ありとあらゆる反則名が飛び交う。
マサルは、タッチダウンライン寸前で笛に気づき、キョトンとした顔で振り返った。その手には、誇らしげに敵のヘルメット(ボール入り)が掲げられている。
「あれ?タッチダウンじゃないんですか?俺、歴史的インターセプト決めましたけど?」
審判が、額に青筋を立て、血管が切れそうな勢いでマサルに詰め寄る。
「君は!一体何を考えているんだ!相手選手のヘルメットを奪い、それを使ってボールをキャッチするなど、前代未聞だ!スポーツマンシップのかけらもない!」
マサルは、心底不思議そうな顔で答えた。
「え?でも、結果的にインターセプトじゃないですか?これぞ発想の勝利!俺の辞書に不可能の文字は…えーと、ありましたけど、『常識を覆すひらめき』って項目が追加されました!」
相手チームのコーチが血相を変えて飛んでくる。
「うちの選手に何てことをしてくれるんだ!危険極まりない!退場だ!永久追放だ!」
味方のコーチは、もはや怒る気力も失せたのか、ただただ天を仰いでいる。ケンタは、胃を押さえてうずくまっていた。
「ケンタ、見たか?俺のスーパープレー!あれ、ギネス申請できるかな?」
ペナルティで大幅に後退させられ、さらに厳重注意(というかほぼ退場勧告)を受けたマサルは、なぜか得意満面で俺に話しかけてくる。
「お前…もう…帰ってくれ…頼むから…」俺の声は、かすれていた。
結局、そのプレー(?)が決定打となり、マサルは「試合の秩序を著しく乱した」として、フィールドから強制退去させられた。
試合後、ロッカールームで、俺はマサルに最後の力を振り絞って問い詰めた。
「お前な!何なんだよ、あのプレーは!ヘッド・スナッチだ?ヘルメット・イン・ワン・キャッチだ?ふざけるのも大概にしろ!」
「だってケンタ、ボールがヘルメットに入ったんだぜ?奇跡だろ?俺、持ってる男だからな!それに、相手の視界を奪えば、パスキャッチも阻止できる。一石二鳥の頭脳プレーじゃないか!」
「お前の頭脳はブラックホールだ!常識もルールも何もかも吸い込んで消滅させるんだよ!あと、あれはインターセプトじゃなくて、ただの強奪と器物損壊未遂だ!」
マサルは、自分のヘルメットをポンポンと叩きながら、悪びれもせずに言った。
「まあ、審判には俺の先進的な戦術は理解できなかったみたいだな。時代が俺に追いついていないのさ。でも、ちょっとヒーローっぽかったろ?『鉄球のヘッドハンター』って感じで!」
俺は、もうツッコミを入れる言葉も見つからなかった。
ただ、一つだけ、心の底から思ったことがある。
こいつを、金輪際、球技に関わらせてはいけない。
…いや、どんなスポーツからも隔離すべきだ。
そう固く誓ったはずなのに、マサルの目が、なぜか次の獲物を探すようにギラギラと輝いているのを、俺は見逃さなかった。
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