第4話:乱入! 謎のチャレンジャー」〜バレーボール編〜



シリーズ「乱入! 謎のチャレンジャー」〜バレーボール編〜


第四話:勘違いリベロの後方支援(アタック)


(前略:偽リベロの登場と、コート上の混乱、相手のマッチポイントまで)


スコアは23-24。相手のマッチポイント。体育館の空気は最高潮に張り詰めている。

相手エースの強烈なスパイクが、コート中央、やや後方に叩きつけられようとする!

「くそっ!」

俺、セッターのカケルは、ボールの落下点へ必死に滑り込んだ。上げれば、まだ繋がる!エースのリョウが後衛からバックアタックの体勢に入っているのが見える!頼む、リョウ!


だが、その横から、影のように現れた偽リベロが、俺よりも早くボールの下に入り込んだ!

「邪魔だ!」

俺は叫んだが、偽リベロは「任せろ!」とばかりに親指を立てる。何を任せるんだ!?


そして、次の瞬間、俺たちの理解を超えたプレーが炸裂した。


偽リベロは、落ちてくるボールをアンダーハンドで拾い上げた。ここまでは普通だ。だが、そのボールの軌道は…!

ネットとは逆方向! 味方コートの後衛、まさにバックアタックの助走に入ろうとしていたエースのリョウに向かって、一直線に、しかも凄まじい勢いで飛んでいったのだ!


「えっ!?」


バシィッ!!!


鈍い音と共に、リョウは鳩尾あたりにその強烈なレシーブ(いや、もはやパスですらない何か)を食らい、「ぐふっ」という呻き声を上げてコートに膝から崩れ落ちた。


「リョウ!」

「しっかりしろ!」


ボールはリョウの体に当たって不規則に跳ね、無情にもコートに落ちた。試合終了のホイッスルが、やけに甲高く体育館に響き渡る。


「………」

呆然と立ち尽くす俺たちリバーサイド・スパイカーズの選手たち。

勝った相手チームも、何が起こったのか理解できない、という表情でネットの向こうに立ち尽くしている。


その混乱と静寂の中、諸悪の根源である偽リベロは、膝をついて悶絶するエースのリョウを見て、**「よしっ!完璧なバックアタック支援!」**と、拳を握りしめて満面の笑みを浮かべたのだ!


「「「はぁぁぁぁっ!?」」」

コート上の全員(相手チーム含む)の心の声が、完全にシンクロした瞬間だった。


バックアタック支援…!? あの、味方へのダイレクトアタックが!? こいつ、バックアタックの意味を、文字通り「後ろ(バック)への攻撃(アタック)」だと勘違いしてやがる!!!


「お、お前…バックアタックってそういう意味じゃ…」

俺が呆然と呟いたが、偽リベロには届いていない。


彼は、自分の「完璧な後方支援」に満足したのか、誇らしげに胸を張ると、着ていたオレンジ色のリベロユニフォームをぺろりと脱ぎ捨てた。その下から現れたのは、やはり、全身緑色のピチピチタイツとサッカーボール柄の海パンだった!


「ふぅ、バレーボールも奥が深いな! 特に後方支援は燃えるぜ!」


そんな、どこまでもズレた感想を述べながら、そいつは体育館の出口に向かって意気揚々と歩き出した。


「待てゴルァァァ! てめぇ、ふざけた支援しやがって!!」

腹部を押さえながら、涙目で立ち上がったエースのリョウが追いかけようとした瞬間、またしても自分の足元がおかしいことに気づく。

「なっ!? やっぱり!?」

見ると、リョウの両足のバレーシューズが、ガムテープでぐるぐる巻きにされ、床に固定されていたのだ! しかも今回は丁寧にリボン結びまでされている! どんだけ器用なんだよ!


俺たちが唖然とし、リョウがガムテープと格闘している間に、緑タイツの乱入者は完全に姿を消していた。体育館のドアが閉まる音だけが、やけに大きく響いた。


「…あいつ…本気で、バックアタックを勘違いしてたのか…?」

俺、カケルは、床でガムテープと戦うエースを見ながら、もはや怒りを通り越して、ある種の恐怖すら感じ始めていた。ただの迷惑なやつじゃない。思考回路が、根本から違う…。


俺たちの、暑くて、長くて、そして常識が全く通用しない夏は、一体どこへ向かうのだろうか。


(バレーボール編・ 了)

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