最終章 暖めうるかもしれない
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答え:ヒガシクルド(東 繰人)
詳しい推理は第七話と第八話で解説しているので、そちらを見てね。
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僕は画面の向こうで火刑に処されている男を見ている。
何故スパポン国王はナパットを火刑に処したのか。
それは散々犯罪者を処刑してきた国王が身内にだけ甘いとなれば、それは全ての国民に失望を与え彼の権力は一瞬のうちに失墜するから――と世間が考えるからだろう。
逆に言えば、身内にも厳しい態度を取れば腐敗のない正義を貫く国王という印象を与えることが出来る。
国王は涙を呑んで重い決断を下したのだ――そういう美談が世界中に広まっている。
しかし、そうではないことを僕は知っている。
何故ならナパットはマホガニ中毒ではないから。
そもそも国内のものが食べられないアレルギーなのに、国内で生み出されたマホガニを摂取できるわけがないのだ。
遺体を燃やした理由も宗教的に輪廻転生させないためではない。遺体の毛髪などを調べられて薬物使用の痕跡がないことが発覚しないようにするためだ。
これは僕が国王になる前のスパポンと交わした密約だった。
「僕が国の敵として暗躍するから、君はそれに対抗する主君となれ」と。
自分の人生が報われるべきだと考えていたスパポンは僕の取引に応じた。そして息子を政治の道具にした。蛙の子は蛙という言葉があるが、蛙の親もまた蛙なのだ。
ナパット……許せない殺人鬼。
自分の欲望に忠実で、思い通りにならないキラちゃんを暴行し殺すなんて。生きる価値のないゴミだ。
クラスのみんなもゴミだ。
あれだけ外国人差別の雰囲気に包まれていたのに、本物の外国人が来た途端にみんなしてひれ伏し従順になっていた。
そしてナパットがキラちゃんを殺したことを知っているのにクラス全員で隠ぺいした。生きる価値のないゴミだ。
中島みゆきの『糸』を合唱コンクールで歌うことを決めたのはキラちゃんらしい。僕の名前の由来である『運命の糸を自分で手繰り寄せる人間になりなさい』というエピソードから糸という言葉に彼女も何らか思うところがあったようだ。
今、僕という縦の糸とキラちゃんという横の糸が織りなす真っ赤な恨みの布が、ナパットに巻き付いて焼き尽くしている。
キラちゃんは納得してくれるだろうか。いや、復讐は望まないだろう。
それでもこの炎が彼女に届けばと思う。
炎の熱さは僕の想いの熱さでもある。天国にも伝わってくれればきっと彼女を暖めうるかもしれない。
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S「謎が解けたら解けたでなんかつまんなくなったな」
P「それなら、また外に出れば良いんじゃないか」
S「嫌だよ。さっき下駄箱まで下りていくのだって苦労したんだから」
V「敵……来るよ」
S「あーあ、バリケード突破されたか。しっかし高校生なのになんでこんな目に合わなきゃいけないのかね」
P「そんなもの、あの宇宙人に聞いてくれ」
S「20××年、中島みゆき星人が突如地球に降り立ち、中島みゆきを聴かない人間を虐殺した――なんて、2020年代の人間は絶対に信じないだろうな」
P「また君の妄想が始まったと思うだろうね」
S「まぁ、好きにならなきゃ殺すって言われても絶対に聴かないけどな」
V「わたしもそう」
P「脅しで聴くようになるレベルならわざわざ学校に立てこもって、学校を自宅とする『ホームズ』を設立して闘ってないだろうね」
S「名前でふざける奴なんて大嫌いだ。大体なんだよ俺の名前、風中スバル(かぜなかすばる)ってふざけすぎだろ。『地上の星』の歌詞から取りましたって言われたって逆に中島みゆき嫌いになるっつーの!!!」
P「僕なんか草原ペガサスだが?」
V「街角ヴィーナスよりマシじゃない?」
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「以上が報告ですぅん。ミスタ国王……」
探偵の言葉を聞いて私は安心した。
どうやら息子のアレルギーのことを知っている唯一の人間たち――交換留学先のクラスメイトが全員死んだらしい。
そして探偵が推理した通りの場所に現れたコラウィットの暗殺にも成功したようだ。
私は満足げにうなずくと、探偵に報酬を渡す約束をし、
「今回もありがとうございました、先生」と、礼を述べた。
「ミスタ国王、またなにかお困りのことがあったら、お声をおかけくださいましぃ……」
その言葉とともに探偵からの電話は切れた。
あれだけの悪行の限りを貫いたコラウィットは当然、地獄に堕ち、愛する者とあの世で再開することは叶わないだろう。
「逢うべき人に出逢えることを人は“仕合わせ”と呼びます」という歌が日本では有名らしいが、
『逢うべき人に出逢えないこと』はなんと呼ぶのだろうか。
きっと『仕返し』と呼ぶのだろう。
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