第六章 横の糸はわたし(ヒント編その1)
S……自宅部(ホームズ)部員。直観的推理が得意。ミステリーが好き。
V……自宅部(ホームズ)部員。分析型推理が得意。
P……自宅部(ホームズ)部長。三回間違った推理を聞くと突然真実をひらめく機械仕掛けの神的な推理が得意。ミステリーは興味ない。
S「って書かれた紙が下駄箱のとこに落ちてたんだよ」
P「それで解決編が載ってない小説を持ち込んでみんなで推理させようってことか。ここはミステリー研究会じゃないぞ」
S「まぁまぁ。ホームズって名前なんだし良いじゃん」
P「特定の部活に入っていないが帰宅もしないから帰宅部でもない、学校を自宅にしている者たち(home+s)を通称ホームズと呼んでるだけで、某英国紳士は関係ないんだが……」
S「細かいとことは言いっこなしなし。それにマチちゃんがもうシャーペンと消しゴムを持って黙々と解き始めてるし」
V「……」
P「それにしても中島みゆきの中でも『糸』をテーマにするとはえらく宗教に寄せてきた作品だね」
S「えっ、『糸』って宗教関係あるん?」
P「知らないのか? 『糸』は1992年に天理教の4代目代表の結婚式を祝して作られた曲だ」
S「天理教?」
P「日本有数の巨大宗教で奈良県天理市は宗教都市として有名だよ」
S「全然知らねぇ……日本でも宗教都市と呼ばれるような場所があるんだな。『女王国の城』みたいだ」
P「女王国? まぁいいか。とにかくこの謎を解くにあたって一番必要なのは主人公の名前を考えることだが」
S「まぁもう俺は分かっちゃったけどね」
P「そうなのか?」
S「犯人はナパット・パッタナセッターノンだよ」
P「どうしてそう思うんだ?」
S「だって主人公は外国人なんだろ。この中で外国人の名前はナパット・パッタナセッターノンだけじゃないか」
P「ナパットは処刑されてるだろ」
S「おやおや? ペガっちは気付いてないのか~? ナパットは火刑に処されるんだぜ? つまり遺体はもう判別できなくなる。だから火刑に処されるのは替え玉だよ」
P「ほう?」
S「息子想いのスパポンはナパットを処刑すると言いながら替え玉を用意して息子を一人、日本に送り届けたってわけ。泣かせる親子愛の話じゃねぇか。うぅ……」
P「そうして日本に渡ったナパットは昔外国人差別をしていじめてきた奴らに復讐をしたと?」
S「そう考えるのが一番自然じゃないか。これでリーズニットだぜ!」
P「リーズニットってなんだ?」
S「意味は分からないけど、名探偵のキメ台詞みたいなやつだよ。カッコいいだろ」
P「はぁ……そうか。とりあえずその推理は外れだ。ナパットが犯人である可能性は100%ありえない」
S「なんでだよ」
P「ラキムボンを食べているからだよ」
S「ラキム……なんだっけそれ?」
P「ちゃんと読んでないのか? ラキムボンはA国の主要穀物トウモロコシだけを与えて育てた牛だ。そのラキムボンのソテーを主人公は食べている。ナパットは酷いアレルギー体質だったはずだが」
S「確かA国のものは殆ど食べられず海外から食料を輸入しなければならな……あぁっ!」
P「その通り。だから主人公がラキムボンのソテーを食べている以上、彼がナパットである可能性はない」
S「じゃ、じゃぁ犯人の名前は……」
P「とりあえず、最後の新聞記事に書かれている苗字と作中に出てくる名前を組み合わせて人物表でも作れば何か見えてくるかもしれないね」
S「め、めんどくせぇ~~~~~!!!!」
P「マチくんを見習えよ。ずっとこの事件の概要をまとめてるぞ」
V「この事件の問題編が縦の糸だとするなら、横の糸はわたしたちが紡いでいけば、真実という名の布が織れるのかなって思って……まとめるのはもうちょっと待ってて」
S「ちぇっ。じゃぁ俺も苗字と名前を組み合わせる表でも作るかぁ。えーっと何々……小鳥遊? 東雲? 栗花落? なんて読むんだこれ?」
P「最後の新聞記事に書かれている漢字の読み方だが、有栖川(ありすがわ)、如月(きさらぎ)、東雲(しののめ)、東海林(しょうじ)、小鳥遊(たかなし)、栗花落(つゆり)と読むようだ。辞典にそう書いてあった」
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