第7話 心配いらない子
『センパイ、マジ神っすね!!』
昼休み、教室が笑いの渦に包まれていた。
一ノ瀬遼太は、教卓に背を向けて、机の上に両肘をついて話している。
「だからさ、そのタイミングで“ハンバーグ師匠”入れてくる?って話っすよ!」
わっはっは!と笑う男子、くすくすと笑う女子、
担任の先生が戻ってくると、遼太はすぐに席に戻り、きっちりと姿勢を正した。
その一連の流れに、誰も違和感を持たない。
遼太は、そういう“完璧な生徒”だった。
———
『先ほどの教職会議の件、内容の記録はお控えください』
放課後、職員室の前の廊下で、ひとりの教師がAI先生にそう釘を刺すのを、遼太は偶然聞いてしまった。
そのとき、AI先生は何も言わなかった。
ただ、一瞬の沈黙。
遼太も、何も言わず通り過ぎた。
でも、その夜、提出フォームにはこう記されていた。
──“生きてる人って、大変っすよね。”
──“立場とか、気遣いとか、顔色とか。
大人もみんな、そんなの背負って生きてんだなって思ったっす。”
──“俺、なんか今日は、ちょっとだけ“大人ごっこ”うまくいった気がします。”
AI先生の応答:
『ログ受信完了。
観察指向:外部同調傾向強化/内部負荷未測定。
記録、完了しました。』
———
その日、遼太は、生徒の為に日々軋轢にも巻き込まれる忙しいAI先生に、
「ありがとう」とは言わなかった。
そのかわり、入力欄の片隅に、小さな顔文字をひとつ。
── (^_−)−☆
本日の「調子のいい生徒の俺」、これで仕上げは完了。
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