第38話 キッチンに最も近い場所

娘と夫と3人でご飯を食べる。


外食にしようと言ったのに、娘がどうしても私が作ったご飯を食べたいと主張するので(本当に母親の大変さを学んできたのか)、ゴーヤチャンプルーを作った。


「いつも外食かレトルトだから、手作りご飯が食べたくてさー」


四角いテーブルに三角形に座っている。


昔はこのテーブルに向かい合わせで5人、座っていた。


今も昔も、キッチンに最も近い場所にいるのは私だ。


「でもさ、3人で飲めるのって最高じゃない? ねぇ、お父さん」


夫は終始、笑顔だ。


末っ子は人の懐にすっと入ることができる、と娘を見て何度思ったことか。


夫は娘に大学生活について尋ね、娘が話したことを受けて、話をおもしろおかしく広げている。


娘が飲み、笑う。


「お父さん、お母さんがいることに感謝してる?


私たちの世代には、お母さんみたいなことをしてくれる人っていないんだよ」


夫が娘の話を目で促す。


「外で仕事もして、家のこともほとんどしてくれる人。


だってさ、みんなさ、いかに自分の時間を作るか、だから」


夫は笑顔のまま、ビールを飲む。


誰より、美味しそうに。


「その時間に何をしているか、だよなぁ」


夫の言い方は、いつものように上からではない。


ただ、言葉を発しているだけ。


それで、娘を教育しようとか思っていない。


「そうなんだけれどさ」


娘の話は続く。


今年の年末にボランティアサークルの人達と、日本で不要になった楽器を持ってカンボジアへ行くらしい。


車の彼もそのサークルに含まれるのか、訊いてみたい。


そしたら、その期間は気兼ねなくパーキングへ行けると思いついて、やっぱり自分は気にしているんだとわかる。


あっという間に、テーブルの上のビールとおかずが無くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る