第30話 さすがに、何だろう

「お母さん、来てくれてありがとう」


歌い終わり、ほんのり赤くなった娘の頬。


髪が濡れ、瞳は水滴か汗か、光っている。


嬉し泣きの後のよう。


来てよかった、と思う。


こんな可愛らしい顔が見られるなら。


「ところどころ、動画を撮ったから送るね」


私が言うと、


「いいのに。誰か撮っているはずだから」


娘が笑う。


ステージでは次のバンドの曲が始まった。


ステージ横の簡易テントには、娘のバンド仲間、その友人らしい人だけがいる。


娘へ、差し入れの飲み物と娘の好きなゼリーを渡したら、私ができることは終わり。


「じゃあ、帰ろうね」


「うん。お母さん、帰りはパーキングへ寄っていってね」


笑ってしまう。


「ずっと立って疲れたでしょ? 雨も降っているし。さすがにね」


さすがに、何だろう。


友人らしい子が娘の名前を呼んだ。


「ありがとうね、お母さん」


お互い、少しだけ手を振った。


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