第23話 彼は私を知っている

小走りで車へ向かう。


自意識過剰だ。


彼が私を見ているはずがない。


でも、ここはパーキングで、走るのは不自然だけれど走ってしまう。


彼が声を発した、ような気がする。


いや、彼が私へ声をかけるはずがない。


聞こえなかったことにする。


小さな軽自動車に乗り込み、すぐにエンジンをかけた。


右へウインカーを出し、アクセルを踏む。


彼が視界に入ってしまう。


彼は私の方を見ている、かどうかはわからない。


確かめるためには、太陽の光もヘッドライトの光も充分ではない。


パーキングの出口から出て、安全に合流すること。


それだけに集中する。



彼は私を知っている。



ふいに浮かび、意識して唇の端を持ち上げる。


どこにでもある軽自動車に乗っている、40代後半の特徴のない女、なのに。


ただパーキングが好きで、少しパーキングで休みたかっただけなのに。


80キロを保ち、左車線を走り続ける。



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