第20話 切ないのは試合が終わった後

まだ歩けない娘を抱っこ紐に入れて、右手で次男と手を繋いで、長男は私の少し前を歩いている。


瀬長島の野球場だ。


よくここで夫が草野球をしていた。


海に面しているCコートでの試合がなぜか多くて、終始風が強いし、雲りの日には白い球が見えづらくなると夫は言っていた。


でも、センターを守る夫が捕球ミスをしたり、目測を誤ったりするのを一度も見たことがない。


坊主頭の頃と変わらない体型で、走る捕る投げる、打つ走る滑りこむ。


夫がヒットを打って塁に出る。


こども達が「パパー」と手を振る。


夫が手を振り返す。


たくさんお菓子を食べながらだったけれど、こども達は2時間ぐらい、試合が終わるまでちゃんと野球を観ていた。


切ないのは、試合が終わった後。


絶対に、夫は私達と一緒に家へ帰らない。


仲間と飲みに行く。


私はこども達に何か食べさせて、シャワーを浴びさせ、順に歯を磨き、寝かしつける。


ほとんどの場合、3人と一緒に私も眠ってしまう。


夜中に目を覚ましても夫は帰っていない。


ふくふくとしたこども達の頬。


幸せだと思う。


けれど、私はここにいて夫はいない。


そして、明日が休みだとしても、夫はこども達の面倒はみない。


苦手だった、野球がある週末の夕方から夜にかけて。


仕事に就こうと決心したのも、野球がある夜だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る