Episode.4...Spline Sky.

「はい。こんばんは。由真Yumaさん」

「三人分の麦茶どうぞ」そう言って、麦茶を差し出す、矢沢と石井。

 窓辺に移ったのは花のガーランド。糸で吊るされた小物だった。

「君たちはどこへ行きたい?」僕は言った。

「俺は、単に達郎がどういう意味合いの質問であっても多分、カフェに行った先で定義に悩んで、ああだこうだ言っているような、やがては数学者になっていると思う。石井は?」

「僕は気にしなくていい。道なき道を行くから。由真は?」

「あたしは、適当に就職して素敵な彼氏創るんだ」

「そんなこと―――、本当に思っている?Yuma君。君の素敵な彼氏も、いつかは形のない虚無へと還る。形のないものになってしまう。無形の位と言うものかもしれない。合気道は知っている?」

「いや、あたしは知らない。明鏡止水くらいだったら分かるかな。無常観ともいうけど」

「正しさが全てじゃないから、君には関係のないことだけど」そう達郎は言った。「君に合っているのはあの頃の青春に載せて進むバイク。一直線に社会的になってしまって、僕の下に再び帰ってこないことを後悔しないでね」石井は言った。

「違うの、貴男の下に戻って収まるの。貴男は、男性として一つの人格を持って自立した存在として定義するの、そう文学を知って、あたしは多分ある程度のリテラシーと哲学を学ぶでしょうね。きっと貴男の下に還る。円環の中のウィーケストリンクの一つとして、そこに納められるティル・ナ・ノーグたる場所として、貴男を永遠のままの存在として封入するの、貴方は禁欲としての労働を課し、この世に世を受けた天なる存在としての貴男であって、星のようにそこにただあり続けるだけの存在」

 それきりラインは来なかった。

「じゃあ、遊びに行って良い?久々Dinner食べたい」

 「久々じゃなくて毎日家で食っているだろうが」

 そこでLineは終わった。

 朝は繰り返す。―――あの時の楽しかった夜を置いて行って。

 「Kasasagiさんはね、麦茶が嫌いなの」由真は言った。「麦茶って世界一嫌いな飲み物なの」

 「そう。君らしいね」マキナは言った。

 「あたしらしいってどういう在り方?」

 「誰にでもうまく溶け込んで、馴染んで、その人らしく振る舞って自分を隠す在り方。そう……、口紅みたいにうまくその他人を立ててさ。言えてるでしょう?」マキナは言った。

 「何で分かったの?私の本当の姿は周りに溶け込むのが本物だから、お馬鹿な人が騒いでいたら、あたしだってお馬鹿になるわ。誰だって嗤いたいときなんてあるよね。自分の姿を見て笑う機会は一度たりともなかった」

 「そうでしょう。貴女はあまり面白くない。かと言ってカッコよくもない」マキナは言った。「しかし、……ユニーク」

 「特有と言う意味だね」達郎は言った。「女性的な部分を繊細と捉えだしたのは日本文化だ。差別ではない。区別だ。女性は耽美、優美さと言う文化を最初に捉えだしたのは万葉集だろう。男はその逆、ますらおぶりと言った、力強さ、壮健、荒々しさが挙げられる。しかし僕はそうだと思う。しかし僕は女性でない特有の個として、挙げられるのは、異性も同性も拒絶すると言う拒絶の意志だ。個として誰にも馴染みたくはない。誰かの代替になりたくない。誰かにとって代わる歯車になるくらいだったら、個を選ぶ。個を選択すると言う確固たる意志がある」

 「あたしは麦茶が嫌いなのもそれが理由。だって日本人が好きこのんで選びそうなどと思われていると言う思想がはっきり見えて大嫌い。日本人差別してると感じる」由真は言った。

 「確かに言えている部分が少なからず残存しているだろう。無意識ともいう」達郎は言った。「他人は仕分けするんだ。篩にかけていく。篩に掛けられて残った好みは料理することによってしか選択できない。それはFashionともいうし、己に託された社会的選択肢。社会的選択肢を増やしておくことは便利だ。他者を攻撃し、やっつけることが出来るんだから」

 「そうね」由真は言った。「社会的選択肢によって他人を攻撃する思想だと捉えたのね。違うわ、あたしはいつだって受け入れる側。麦茶は好きで嫌いだわ」

 「君は難しいね」達郎君は言った。「君はどう思うMakina?」

 「Tatsuro君、好みに思想を持ち込むのは良くない。人間はいつだって動物だ。頭を使って。また同時に、いつだって人が言い出した好みの全体が当てにならない。理由や思想を持ち込んじゃいけないのは、それは単に好きの集合と、嫌いの集合の中に軽々しく加えてはならないということ。物なんて現実に有ると認識しているからそうなってしまう。全ては空であり、幻想だ」マキナは言った。

 「執筆見てくれ」達郎は言った。「こんな感じだけど」

 「ううん。分からない。凄いのか、凄くないのか。単純に熱量はあるけど」マキナは言った。

 「そう―――そうなんだ。あらゆる意味で正しさが伝わらないから、僕らってどの程度分かり合えてるだろう?」達郎は言った。

 「科学で理系に行ったとは聞いたけど、君自身何になりたいの?作家とは言え、なれる時とタイミングがあると思うけど」石井はいった。

 「難しくはないんだろうけどさ、単になりたいかそうじゃないかくらいのバーで飛び越えればいいんじゃねえか?」矢沢は言った。

 「恋愛から急に脇道逸れてる。一本で描くほど濃密でなくていいけど、余計なテーマが混在している。哲学や理系と言う概念に押されてしまって、将来の夢とかなった時の展望やあたし達との関係が薄れていると感じるけど」由真は言った。

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