Episode.3...Sky Windows Shopping.

 達郎はキーボードを叩く。空は白んでいた。

 「あの花火で彩られた夜空を思い出す―――」

 達郎は、自分で作った揚げないポテトチップスを片手にTitleを練っているところだった。

 決まったTitleはこの空飛べる滑空する街の飛行場をNovelとして綴った、「Air cloud spot...」

 高校時代からの思考を高度に記述していく。

 幸い文章能力は高くない方だ。

 だから、居間のメモ帳にシャープペンシルでスラスラとアイデアを書いていった。この場所は素敵だ。

 だって朝も昼も夜も、平和で、愉快な皆がいるんだから―――。

 「達郎、ご飯よ。フライよ」そう言って母がドアをノックする。

 「まって、これ終わらせてから」

 「早くしなさいよ、待ってるのよ」そう言って母が立ち往生する。チッと舌打ちした後、達郎は立ち上がった。

 「ああ、今行く」

 フライは冷えると美味しく無いため、気にする料理だから早めに作らないといけない、と思って、さっさと用意していたのを思いいたった。

 「はいよ」

 「達郎も、偉くなったわね。でも、学内順位まだ延びたらどうしましょう?」

 「お前はそこまで偉くならなくていい」父が言った。

 一家は寝る。

 

 朝からLocalな地方でよくある放送が入り込んでいた。


(達郎の想い)

 『ノイズが断絶する。 その隙間に生まれる沈黙は、まるで深い夜の闇のように濃密で、拒絶の色を帯びていた。 夢の中で微笑んでいた彼女の声すら、今は遮られる。

(由真の想い) 「ああ、どうしてこんなにも、交錯した関係が続いてほしいと願ってしまうのだろう。」 その言葉は、夜に揺れる水面のように、確かな形を持たず揺らめく。 「断絶したいわけじゃなかった……でも、彼はそれを許してくれるだろうか。」

〈由真〉 クラブハウスから帰った朝。 乾いたトーストを齧りながら、ぼんやりとしたまま風呂へ向かった。 踊る気分にはなれず、指先で冷えたフライドポテトをつまむだけ。 音楽はただ空気を満たすために流れていた。

 青山テルマの「そばにいるね」Remixを逆回転させて、tuning。 kZmのG.O.A.T.、サカナクションの「目が明く藍色」RemixをDropCastに乗せる。 遠くへ、もっと遠くへ。 この熱を、どこか彼方へさらっていってほしいと願いながら。

 トーストのカスが風呂に浮かばないよう、リビングへ戻る。

噛みしめるそれは、きつね色の自信作。

マッシュポテトと大学芋を並べる。

達郎なら、こんなものは常識。

  何の競争だとため息をつく。

  桐箱入りの優等生。けれど、女心までは探偵できない。

 全て自分でやれると信じて、突っ走るような奴。  

気障で、意地っ張りで、そして――意外と不器用なのかもしれない。

 トーストを食べ終わって、浴槽に入る。前面ガラス張りだ。自分の姿を見る。

  背丈はアイツよりも小さく、155cm.華奢な身体が輪郭と共に浮かび上がる。ライトを付けた。シャンプーを今の石鹸の匂いに変えた。コンディショナーをひまわりの種に、香りを次々と変える。汗がしばらくすると出てきた。すっきり汗かく前に出て行くのが彼女の日課。

 エアコンで除湿に変える。冷え性で、夏でもエアコンは除湿だった。夜は寒くて寝られなかった。今度達郎には送る品物は無かった。今年で私たちの仲はおしまい。

 オーディオからは、女性VoOnlyで男性Voのm-floの声をマスキングして削ってあるInstrumentalのm-floのcome againがAuto tune.

〈この部屋は夢見ていた理想の暮らしと私がいた―――〉

 だからあたしは別の道を模索する。

 達郎とは別の異なる幸せを―――。インスタグラムで写真を撮ったり、趣味を始めた工芸のアップロードをしていった。相変わらずファジーな思想が貧弱に思えたけれども、曖昧さを視認して理解することこそが人を強くさせる意味合いを持っている。

 「まあ、いっか。減るもんじゃないし。この角度は気に入らないけど」


 〈達郎 side〉

 煩いなとは思ったが、地方の警戒注意報を聞いて周囲にConsensusを取るための役割を担っているから仕方のない話である。アサデスというTVだった。

 流行りのK-popが流れる。

 Zerobaseoneの-運命の花-をChoice.

 私は朝、食事を済ませた。鯖にウインナー、レタス、トマト、納豆、カレールーが何品か。

 家を出て、矢沢の家に向かう。今度は焼き肉店巡りに付き合ってほしいみたいだ。そんな事言われて私がやったことはお肉についての情報を一々予習することくらいだった。割と律儀な方である。

 私は理系だった。二年生まで理系と文系が一緒のClassだった。鵲は文系。矢沢も文系。細川は将来は科学者になると言っていた。しかし、法学部を受けた。細川は将来を見据えているようだったが私は分からない。理系というものが楽しい、ということくらいしか頭になかっただけだろう。数学は鍵と鍵穴の関係だ。いかにLogicと言う名の鍵を駆使して真実と言う名の鍵穴に差せるか、というものだという感覚がどこかで感じていた。一言でいうと迷路だ。物理は似ているが少し違う。物理は具体的、数学は抽象的なのだ。具体的な物象を理解する上で化学や物理は確かに面白い学問だと思う。だけど、数学の抽象的な概念が分からず、分かったときの感覚は凄まじい。まさに言うなればGameのLast boss戦のような感覚だ。アレに似ている。解いたときに一抹の不安がよぎ、正解と合った瞬間に、一種の感動すら覚えるのだ。

 闇が波打つ。見えない法則の下で、時空そのものが震えている。  そして――螺旋が崩れ、秩序が反転する。

 ヒカリが雪のように白く淡い泡のような強い輝きを放つ太陽を背に、汗をかきながら外へ出ると、Concreteから雨の溶け込んで染み込んだ匂いが漂ってくる。

 強烈な日差しが容赦なく降り注ぐ。 思考が熱に溶けそうになりながら、汗を拭い、矢沢の家の前に立つ。 徒歩1分の距離。けれど、今年の夏は、その短さすら試練のように思わせる。

「矢沢、焼肉屋行こう。」 達郎は額の汗を払う。

「よっ、待ってました。」 矢沢は楽しげに応じる。

「何を?」 「いや……カラオケ、せん?」

「またかよ。」 達郎は軽くため息をつく。

「合コン目的で。」

「合コン?」 その響きが、炎天下の空に虚しく揺れる。 「それって大人がやるものじゃないの?」

「俺たちの元中学校の女子を集めて、カフェ行く約束した。」

 達郎は理解できなかった。 「女心知らないね。これだから男って。」

「矢沢も男だと思うけど。」

「お前の場合は爺さんだよ。」 矢沢は笑いながら肩をすくめる。 「カラオケでヘマすんなよ。ダサいぞ。」

「そんなにカッコつけて、どうするの?」

「お前、カッコつけてるのを見て、何とも思わないの?」

「思わないことはないけど……」

 会話はまるで夏の光の中に溶けていくようだった。 汗が滲み、風が微かに吹く。 遠くで蝉が、会話の続きを知るかのように鳴いていた。

「カラオケ自体は単にどうだっていいことなんだよ」矢沢は切り返す。「単に人に幸せを与えることだよ。根本はそこだけ。女子に好かれることじゃない」

「だったらいい趣味していると思うよ」

 語彙を知るときは英単語くらいで漢字の勉強はまるでしていない。不勉強だと自覚しているが、私は、基本的に覚えるということが苦手で頭の中に入っていかない。だからいつも語源から推察するのが常だった。

 覚えて「食べる」という行為は過去に捨ててきた。

 使って「呼吸する」ということは今にある。

 それが私の理系の格言だった。

 結局、案外矢沢にしては良いチョイスだった。結局高校生程度のお小遣いで行けるものなんてたかが知れている。

「こんなもんでいいだろ」

「了解」私は徒歩で店を通り過ぎ、目的の店まで戻ってきた。

 矢沢が、私には先に帰るように言った。

 達郎は一人家に帰り、カラオケに行った。なんか歌いたくなったから、あとは小説のネタを考えた。

 「でも、矢沢って、意外と複雑なんだな。単に行動自体に意味を持たず、齎すメリットを考えてる辺りが打算的だとも思えるけれども、それ以上に、あいつは単に頼られたいと言う思いが強いんだろうな」達郎はキーボードを走らせる。

 

 

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