第9話 初めての恋愛相談
ゴールデンウィークに行った温泉施設のお土産を原田に渡したある日の事。珍しく原田から誘いがありハンバーガーチェーン店に来ている。愛はバイトに行っている。原田と飯を食うと伝えたら納得してくれた。愛とは事前に誰かと過ごす場合はお互い報告する約束になっている。愛は嫉妬深い所があるからうっかり報告を忘れると大変な事になりかねない。
注文の品を受け取りテーブルに着く。対面に原田が座るのを確認しセットのドリンクを乾杯する。
「こうやってメクドで一緒に飯食うの久しぶりだな」
「お前が末永とイチャイチャしてるからな」
紙をめくりハンバーガーに
「それで。話があるんだろ?」
俺は原田に単刀直入に切り込んでみた。原田は俺が愛と付き合い始めてから気を使って俺を誘う事が減った。そんな原田がわざわざ愛に断りを入れて誘うというのは何か話があるのだろうと俺は推測した。
「やっぱりお前は察しがいいな」
「何年つるんでると思ってんだよ」
原田はドリンクを見つめカラカラと容器の氷を鳴らす。珍しく歯切れの悪い原田に俺は静かに待つ。しばしの沈黙の後、原田は重い口を開く。
「お前に相談するのはどうかと思ったんだが、やっぱこれを話すのはお前しかいないと思ってな」
「役に立てるかはわからねぇけど言えば楽になるかもしれないし話聞くぜ」
× × × ×
「実は好きな奴ができちまってな」
「お前からこの手の話初めてかもな」
「そりゃあ逆はあってもあんだけフラれてたお前に相談しようとは思わねぇよ」
原田の言っている事はわからないでもないが直接言われると少しイラッとする。
「で、誰だよそのお前の好きな奴って」
俺が切り込むと原田はばつが悪そうに口をもごもごとしだした。女子なら可愛いかもしれないが長年連れ添った男友達にこれをやられるのはきついものがある。
「同じクラスの
俺は口に含んだコーラを吹き出しそうになった。和泉琴葉はクラスで人気な大和撫子のような存在で競争率も高く所謂高嶺の花的存在だ。和泉のおおらかな性格で男女分け隔てなく接する所が人気で告白する男子も多い。例に漏れず俺も一度玉砕している。
「お前って以外とミーハーなのな」
「一度フラレたお前に言われたくねぇよ。それにミーハーと思われようが好きなものは好きなんだから仕方ねぇだろ」
この意見には同意せざるを得ない。仮に望みがなくとも気持ちを伝える事は決して悪い事ではない。
「協力して欲しいんだ。お前と末永に」
「愛にも?」
意外な名前に俺は驚く。すると原田は告白プランを話し始めた。
「末永と和泉が話しているのは何度か見かけた事がある。外堀りを埋めると言えば聞こえは悪いが俺はそれをチャンスと思った。末永経由で仲良くさせて貰いたいんだ」
なるほどと納得した自分と、愛は果たして協力してくれるのだろうかと2つの気持ちが脳裏に過った。愛は自分を持っている。仮に俺が頼んだとしても首を縦に振らない事もありえる。こればかりは聞いてみないことに分からない。
「愛には聞いてみるけどあんまり期待しないでいてくれた方が助かるな」
「あぁ。分かってる。その時はその時だ」
× × × ×
俺は愛のバイト終わりに合わせてバイト先のヒトトキの前で待っていた。仕事が終わり愛が出てくると一瞬びっくりしていた。そんな所も可愛い。
「道長君迎えに来てくれたの?」
「まぁそれもあるけど少し話たい事があってな」
「そうなんだ。でも嬉しい」
夜道に照らされる月明かりが愛の顔をスポットライトの様に照らす。
「それで話っていうのは―」
愛に今日原田との事を話す。愛は静かに聞いていて相槌だけが返ってきた。
「というわけなんだが協力頼めるか?」
愛は静かに一度目を閉じ、そしてぱちりと開けた。何やら愛にも思う所はあるらしい。
「私と琴葉ちゃんは確かに仲良くしてる。協力もできると思う。でも原田君には1人で頑張って欲しいって私は思うな」
「それはどうしてだ? 原田は真剣だ。友達としてあいつには上手くいって欲しいと思っている。理由を聞かせてくれ」
「これは私の思っているだけの事だから深くは考えないで欲しいんだけど、真っすぐ来てくれた方が嬉しい子だっていると思うんだよね」
その言葉に俺は何も返せなかった。俺自身が真っすぐ行って愛と上手く行ったからそう思う女子もいない事はない。和泉がそうとは限らないが愛がわざわざこういう事を言うのにも意味があるのかもしれない。
× × × ×
「愛には相談したけどダメだった。1つ言ってたのは真っすぐ行って喜ぶ子もいるんじゃねぇかって事だ」
『そうか。わざわざ頼んでくれてサンキューな。真っすぐか。想像するだけで怖いぜ』
俺は帰宅してから原田と通話をしていた。原田が何故好きになったとかそういうきっかけをより詳しく話してくれた。原田は良い奴だ。いつも俺がフラレた時は声をかけて笑ってくれる。もしこいつがいなかったら愛に告白する前に諦めていたかもしれない。愛は無理でも俺は手伝うと心の中で誓った。
次の日の放課後。原田は和泉を校舎裏に呼び出した。俺はそれを離れた木の陰から見守る。すると少し離れた場所に見覚えのある桃色の紙が見えた。俺は静かに近づき肩を揺すった。
「きゃっ!? ⋯⋯て道長君か。びっくりしたよ」
「愛はどうしてここにいるんだ?」
「原田君が琴葉ちゃんに告白するんでしょ? 見守らないと」
俺は日時を伝えた覚えはなかった。それに愛が原田の動向が気になっていたのは意外だった。
原田と和泉が向き合った。和泉は静かに真っすぐ原田を見つめていた。原田が話始めた。ここからでは会話が聞き取れない。頑張れ。心の中でそう呟き握る拳は汗をかいていた。告白する瞬間の緊張感は忘れる事はない。きっと原田は心臓バクバクだろう。
原田は頭を下げ手を差し出した。
和泉はその手を取った。俺は思わずガッツポーズをした。横にいる愛は目が潤んでいた。
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