番外編第2話 初めての恋
中学3年のある日俺は同じクラスになった和泉琴葉に恋をした。同じ学年に凄く性格の良くて可愛い女子がいるのは聞いていた。それでも俺には関係ないと思っていた。友達と遊ぶ方が楽しいし何より恋愛とかよく分からなかった。俺の親友の此崎道長は毎度、女子に告白してはフラレている。そんな奴を近くで見ていたから余計にそう思ったのかもしれない。
きっかけは高校受験に備えて塾に通う事になった時だ。勉強も嫌いでテストの点も低かった俺は半ば強制的に通わされた。評判の良い塾を選んでもらったのは俺にとっての幸運だったかもしれない。何故なら和泉琴葉と同じ塾だったからだ。
「同じクラスの原田君ですよね。同じ学校の生徒がいなくて心細かった所だったんです。隣、良いですか?」
「おう、よろしく」
かっこつけては見たものの内心、心臓が跳ねるかと思った。長い黒髪に整った顔立ち。気品ある姿勢や仕草。どこをとっても俺とは住む世界が違うと思った。
そんな事を思っていたが同じ学校に通っている事もあり共通の話題は意外とあり話の内容には困らなかった。先生やテスト、学校行事など。一緒の時間を共有している喜びのような物を感じて俺は幸せだった。
そんなある日の事。俺は此崎に捕まった。失恋話か次の相手の話でも聞かされるんじゃないかと思っていた。
「俺、和泉に告白しようと思う!」
「⋯⋯ッ。そうか」
「何だ嫌に元気がないな?」
「また性懲りもなくお前が特攻するのが見てられないんだよ」
「特攻って。何回も話てるし和泉はめちゃくちゃ優しいんだ。好きになっちまうよ」
その言葉には完全に同意だった。あんな優しく話かけられたら誰でも好きになってしまう。俺は内心、またフラレてくれれば、なんて思ってしまった。心の底から親友の失敗を望んでしまったのだ。
この気持ちを俺は凄く後悔した。和泉にフラレた時の此崎の顔が酷く痛々しくて今にも泣き出しそうなほどに見えた。普段からこうだったのかもしれないが、同じ相手に恋心を持った今の俺は自分にも重ねてしまい余計に辛くなっていった。それから俺は、こいつの恋を本気で応援しようと決めた。
12月のある日の事。外は暗く街にはイルミネーションが装飾されて世間はクリスマス気分だった時の事だ。
「原田君、今日一緒に帰りませんか?」
その時、俺はなんて答えたかも覚えていない。ただ和泉と一緒に帰り道を歩いた。
「イルミネーション綺麗ですね。もうすっかり冬になっちゃって受験近いんだなって考えちゃいます」
「もう3カ月もないんだもんな。早いもんだ」
「原田君は甘菓子受けるんでしたよね」
「あぁ。和泉はどこだっけ?」
聞いていて俺は後悔した。テストの点も内申点も俺と和泉とでは天と地ほどの差がある。高校への進学と同時に離れてしまう。俺は辛かった。
「私は今、迷ってます」
「迷ってる?」
「私立は決めてるんですけど公立をどこを受けるか」
成績が良いと選択肢が増える。それはきっとこの先も同じ事なんだろう。頑張って、頑張って、頑張った奴が沢山の選択を出来る。勉強をしろと耳が痛くなるまで言われて初めてその真意に気付いたのはもう手遅れの時だった。
「和泉ならどんな高校でも受かると思うぜ。めちゃくちゃ頑張ってたもんな」
精一杯の強がり。だけど俺にはこの言葉しか出なかった。
× × × ×
「私も甘菓子受ける事にしました」
「はぁ!? どうして!」
志望校を決める最終日に和泉は俺に報告してきた。正直、甘菓子高校の偏差値はそんなに高くない。勉強が苦手な俺が塾で頑張れば入れる程度の学校だ。
「家から近いですし知り合いも多く受けるので環境を優先しました」
にこりと何ともないように言っているが、この選択が最善ではない事を和泉は理解しているはずだ。将来と交友関係を天秤にかけて交友関係を取るなんて誰にも出来る事じゃない。
「本当にそれでいいのか?」
「はい。私は沢山悩んで決めましたから」
笑顔の中にどれほどの葛藤があったのだろう。俺には想像がつかなかった。
そして春、再び和泉琴葉と同じクラスになった。
× × × ×
きっかけは、塾に通い始めた時だった。見知らぬ人達の中で1人だけ知っている顔がいた。3年生になって同じクラスになった原田樹生君だ。いつも明るくて面白い。元気いっぱいで勉強と読書ばかりしている私には縁が無さそうだなと思っていた男子がそこにいた。人見知りな私は他の学校の人の隣より原田君の近くの方が緊張しなさそうだと思って、原田君に声をかけた。
原田君は数学と英語が苦手だった。計算問題は解けるけど証明や図形が苦手そうでいつも頭を抱えていた。空き時間に私が原田君の分からない所を説明すると目を輝かせながら問題を解き直していた。ちょっと可愛いって思った。
夏のテストで私は原田君に社会のテストで負けた。私は社会が苦手だったけどそれでも悔しかった。どうして社会の点数良いのと聞いたらゲームがきっかけで歴史が好きになったって聞いて私は驚いた。ゲームで興味を持てるのは凄い。私はそんな原田君を尊敬した。
「和泉はすげぇよな。めちゃくちゃ頑張っててさ」
ある日原田君に言われた言葉が私はとても嬉しかった。成績が良い私は家がお金持ちだとか勉強しかする事がないだとか陰で色々と言われて疲れていた時に原田君は純粋に私の努力を認めてくれた。その時初めて私は人を好きになった。
× × × ×
末永愛さんはよく話をする同性の友人と呼べる唯一の人だった。彼女は私と同じく周りにあまり馴染めない内気な性格でとても可愛いらしい女の子だ。ただ彼女は此崎君の話をする時はいつも目がきらきらしていた。私も好きな人の話をしてみたい。そう思った私は末永さんにだけ好きな人を打ち明けた。
ある日、此崎君に告白をされた。あまり話た事はなかったけれど真先に浮かんだのは末永さんの顔だった。私は他に好きな人がいるし何より友達を悲しませたくはなくて告白を断った。人知れず終わらせた此崎君の想いも末永さんは気づいていたようでとても悔しくとても悲しそうな表情をしていた。私は何も声をかけらなかった。
高校に進学してから此崎君と末永さんは付き合う事になった。私はとてもそれが嬉しかった。想いが実ったのは末永さんの献身的に此崎君を想う気持ちが伝わったからだと私は思う。そして嬉しい気持ちと共に私は羨ましいと思ってしまった。
× × × ×
「和泉、ちょっと話があるんだけどいいか?」
「何ですかあらたまって」
「ここじゃちょっと話ずらいからちょっと来てくれ」
俺は和泉を連れて校舎裏まで来た。緊張で心臓がバクバクと
「和泉琴葉さん。好きです付き合って下さい!」
俺は頭を下げ手を差し出す。頭の中にあるのはこの後の和泉の返事。ごめんなさいしか頭の中で再生されない。もっと沢山話ていれば、もっと沢山遊んだり一緒の時間を過ごしていれば。そんな思いがぐるぐると周る。だけどこの気持ちを今伝えないで、誰か他の人と付き合う事になったら俺は間違いなく後悔してしまう。和泉は可愛くて、綺麗で、優しくて誰から見ても魅力的だ。俺は可能性よりも後悔をしない事を決めた。だからどんな返事でも俺は納得してみせる。
俺の手を柔らかい手が包んだ。温かくて優しい手だ。俺は顔を上げた。和泉の表情は笑顔だった。しかし頬を涙が伝っていた。
「私も原田君の事が好きです。これからよろしくお願いします」
頭の中が真白になった。これは夢なのだろうか。俺は頬を軽くつねると痛みがあった。現実。俺は和泉と付き合う事ができたのだ。
「和泉も俺の事が好きだったって、両想いって奴か。恥ずかしいな」
「そうですか? 私はとても嬉しいです」
和泉は今まで見た中で1番の笑顔でそう言った。この笑顔を俺に向けてくれている。ただそれがたまらなく嬉しかった。
「私、甘菓子受けるって両親に伝えた時物凄く反対されたんです」
「まぁそうだろう。和泉なら私立も受かってたしもっといい学校にも行けただろうからな」
「それで私は初めて両親と喧嘩しました」
和泉が怒るなんて想像つかなかった。誰とも揉めず折り合いを付けるのがとても上手い和泉が両親と喧嘩するほどになるなんて。
「初めてのわがままだったんです。それで両親はがっかりしてましたが最後には好きにしていいと言ってくれました。私がここまでわがまま言った理由わかりますか?」
「まさか⋯⋯」
「好きな人と一緒の学校に通いたかったからです」
俺はその言葉を聞いて、生涯この選択を和泉に後悔させないようにすると心に誓った。
フラれまくった俺が唯一OK貰えたのは独占欲の強いヤンデレ美少女でした 秋月睡蓮 @akizukisuiren
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