第8話 初めての彼女と温泉施設

 ゴールデンウィーク休みのある日。姉貴が借りたレンタカーに、俺と愛、好美さんが乗り込みながら姉貴が車を運転している。車窓から見える景色は青い海が波立っていて夏ならサーファーが沢山来そうだなと思った。隣に座る愛も同じく海を見ている。

「夏になったら海に行きたいね」

「愛の水着めちゃくちゃ楽しみだよ」

「もう道長君はエッチなんだから」

「この会話を聞かされる姉とバイト先の先輩になれまったく」

 姉貴は文句を言いつつもその言葉とは裏腹に声音は柔らかい。愛を気に入ってるのか以前よりほんの少しだけ優しくなった様に感じる。

「まぁまぁ。お熱い事は良い事じゃない」

 好美先輩は和やかにそう言った。車を走らせて1時間程経過し目的地に着いた。


 × × × ×


 今回遊びに来たのは県内有名の温泉施設で海が近くにあり露天風呂から見える景色は絶好との事。ゴールデンウィークもありやはり多くの家族ずれやカップルが多く賑わっている。家族に手を引かれている子供を見て愛はそれを微笑ましくみていた。いつか俺と愛にもなんて先の早すぎる事をふと考えてしまう。

「受付け済ませたからさっそく行くぞ」

 姉貴について行き施設に入る。フロアには沢山のお土産が売られており帰りに見ていくのも楽しみだ。


 温泉に入る為に愛達と別れ男湯に入る。更衣室は木製のロッカーで渡された鍵とリストバンドはなくさない様に手首に付ける。リストバンドでは牛乳とかをバーコードで買える自販機に使う。後払い式だ。


 俺は身体をレンタルしたタオルを片手に露天風呂へと向かった。


 × × × ×


「綺麗だね〜」

 私は今、好美先輩と未来さんと一緒に温泉に入っている。ガラス越しから見える海はとても綺麗でここに来て良かったとすぐに思わせるほどの絶景だった。

「好美〜またデカくなったんじゃねぇか?」

 好美先輩の胸を未来さんは鷲掴みする。女子同士のスキンシップは珍しくはないけどこんなにがっつりとは見た事はなかったので驚いてしまう。

「もう、肩凝って大変なんですよ〜。それにそんな事言って未来さんも十分あるじゃないですか」

「アタシのは良いんだよ。誰も揉むやつなんかいねぇし」

「本気出せば男の人ほっとかないのに」

「アタシより弱い奴に触らせてやらないよ」

 2人は仲良く話ていて私が会話に入れる余地は無さそうだなと思った。そしたら私の胸を下から持ち上げる様に未来さんが触って来た。

「は、恥ずかしいです」

「はぁ。弟が羨ましいよ。こんな可愛い彼女が出来るなんてね」

「未来さんやっぱそっち?」

「ちげーよ!」

 私はなんとなくわかる。未来さんはいつも道長君にあたりを強くしてるけど弟の事が大好きなお姉さんだって。


「露天行こうぜ」


 × × × ×


「1人って暇だ」

 俺は色んな温泉を周りお湯の効能と香り、景色を楽しんだが誰も話す相手がいないと思いのほかそこまで楽しくはないらしい。

「最後にサウナでも入るか」

 俺はサウナに入りすぐに後悔した。ムキムキの熟練したおっさん達もといサウナー達が修行が如く大汗を流していた。俺は引き返そうとするも阻まれる。

「兄ちゃんみたいな若いぼっちゃんにはこの灼熱の良さがわからねぇよな」

「何?」

「5分でも耐えられねぇだろ」

「5分どころか10分以上余裕だぜおっさん!」

「ふ、若いね」

 こうして謎のおっさんの挑発によりサウナに入る事になった。


 × × × ×


「道長君遅いですね」

「馬鹿だからサウナにでも入ってのぼせたんだろ。ここのサウナはそこいらの界隈では有名な所で修行の代わりに入る奴がいっぱいいる所だからな」

 私達が話ていると道長君は身体の大きな男の人に担がれて出てきた。

「道長君!?」

「このぼっちゃんの連れか。少し休めば大丈夫だろうがあまり無茶させちゃダメだぜ」

 そう言って男の人は去って言った。私はすぐに水を道長君に手渡す。道長君はそれを受け取りこくこくと飲み身体を起こした。

「サンキューな愛」

「大丈夫?」

「おかげ様でな」

 道長君を休ませる為に休憩スペースに向かう。好美先輩はにこにこしていて、未来さんは見るからに不機嫌そうだった。


 × × × ×


「だいぶ良くなった。悪いな暇だったろ」

「ううん。道長君が元気になって良かったよ」

「ところで好美先輩と姉貴は?」

「2人は卓球やりに行くって」

「まったく自由だな。俺達も行くか」

 愛と一緒に卓球をやれる場所まで行くと何やら男女の話声が聞こえた。女の方は恐らく姉貴達だろう。


「お姉さんさぁ。俺達と遊ぼうよ。酒でも飲んでさ〜」

「運転で来てるって言ってるだろしつこい野郎共だな」

「泊まればいいじゃん〜。宿泊代は俺達もつし〜」

「泊まらねぇよ。そもそもあんたらとも遊ばねぇしな」

 どうやらナンパに絡まれている様だ。愛は心配そうに見ていたが、俺が心配するのはナンパをしている方だった。


「あー。わかったわかった。アタシに腕相撲勝てたら遊んでやるよ」

「まじ? お姉さん俺強いよ〜」

 ニヤニヤと笑う日焼けした男が姉貴と勝負をするみたいだ。姉は鞄から何やら紙を取り出した。

「この書面にサインしてからな」

「契約書? お姉さん格闘家とかじゃないんだからいらないって〜」

「まぁ書きなよ」

 男は姉貴から手渡されたボールペンですらすらと書いて行く。これは姉貴の常套手段だ。俺は下半身がきゅっと縮む。ニヤニヤとした男と姉貴は手を組みスタートの合図が切られた。


 瞬間―


 物凄い速さで男の腕はテーブルに着いた。聞こえてはならない音と共に。

「はぁ〜!? いてぇ!?」

「おい連れ。すぐに病院に連れてってやれよ。折れてるぜ」

「まじかよ! やり過ぎだろ!」

「だからサイン書いてもらったじゃねぇか。ゴタゴタ抜かすなよ。それでも玉ついてんのか?」

「くっそ〜。おい行くぞ」

「ざけんなブスゴリラ!」

 捨て台詞を吐きながら男達は去って行った。俺はすぐに姉貴達にかけよる。

「おい見てたんなら助けろよな〜」

「助ける相手はあのナンパ達だけどな」

 好美先輩は慣れているのかにこにことしていて逆に怖いまであった。


 × × × ×


 それからダブルスで卓球をして遊び岩盤浴を楽しみ、最後に汗を流すのにまた温泉に入り帰る事となった。俺は原田の分のお土産を買いそれぞれが買物を終え車に乗り込んだ。


「今日は楽しかったね」

「かっこ悪い所見せちまったけどな」

「そういう所ももっと見せて欲しい」

「愛の可愛い所ももっとみたいな」

「もう道長君ったら」

 バックミラーに映る姉貴の顔は苦虫を噛んだ様な表情をしていた。まぁ身内がここまでイチャイチャしていたら俺でもそうなるかもしれない。

「相変わらず未来さんといると退屈しないなぁ」

「お前1人の時が心配だよアタシは。彼氏でも作れば良いのによ」

「私は未来さんより強い人がいいな〜」

「そんな相手待ってたら行き遅れになるぞ⋯⋯」

 あんたが言うなと心の中だけでツッコんだ。


 夕暮れが反射した海はとても綺麗でこの景色を写真に収めたい気分だった。俺はスマホを取り出し愛の肩を抱き寄せた。

「道長君?」

「はいチーズ」

 俺はインカメで撮影をする。写真に映る愛は何がなんだかわからず慌てていてとても可愛いかった。それを言うと愛は頬を膨らませ、今度は愛が俺の肩に寄りかかり写真を撮った。こっちの俺はマヌケな顔をしていた。お互いのスマホに想い出になる写真がお互いのかっこ悪い所なのも俺達らしいかもしれない。

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