第2話 初めての彼女が可愛いすぎる

 末永と付き合い始めての朝、末永が迎えに来てくれた。母親が出迎えると上がる様に言ったらしく食卓に末永が座っていた。

「もう聞いたわよ愛ちゃん! ウチの子と付き合ってくれたんだってね! ほんとにこれから迷惑かけるかもしれないけれどよろしくね!」

「はい。此崎君とこれからずっといられる様に私がんばります!」

「ほんとに可愛いわ〜。信じられない!」

 我が家に馴染み過ぎている気もするが母親が末永に好印象なのはこれから付き合いが長くなるならむしろ好都合だ。昨日、母親から『あんた、彼女の一人もいなくて情けない』などと時代錯誤な事を言われたが昨日は浮かれていたのもあり末永と付き合った事を暴露した。すると見る見る内に母親は食いつきこの有様である。


「食器片付けるの手伝います」

「いいのよゆっくりしてて〜」

 いつもは家事している時不機嫌な母親も鼻歌交じりに皿を洗っている。もしかしたら俺以上に浮かれているかもしれない。

「じゃあそろそろ行ってくる」

「ちゃんと愛ちゃんは歩道側歩かせるのよ! それと嫌がる様な事しちゃダメだからね!」

「うるさいなわかってるよ! 行ってきます」

「ご馳走様でした。それとお邪魔しました」

 末永はぺこりと母親に頭を下げ俺について来る。


 × × × ×


 俺の半歩後ろを歩く大和撫子の精神でもあるのかと思うくらい気を使ってそうだから、俺は普段通りで良いと伝えると末永は困り顔をしていた。

「私わからない事ばかりだから色々自分なりに勉強してみたんだけど変かな?」

「末永がしたいならそれでいい。だけど俺は自然体でリラックスしてて欲しいかな。俺も気を使っちゃいそうだし」

「それは確かに良くないかもね。うん私普段通りにする!」

 肩肘張って普段通りにする宣言は、それはそれでどうかと思うがそんな不器用な所が愛おしく感じた。


 × × × ×


 教室に入ると皆が好奇の目で見てきたのがわかった。普段一緒に末永と登下校こそすれどいつもよりも近い。それに気づくこのクラス凄すぎる。

「末永さんおはよう。ねぇもしかして⋯⋯」

「⋯⋯うん」

「おめでとう!」

 クラスメイトの女子の一人が耳打ちで確認してそれを末永は首肯した。どうやら本当に相当前から俺の事が好きだったみたいだ。くぅ〜何でもっと早く気づかなかったんだ! そんな俺の所にもクラスメイトは寄ってきた。中学からの腐れ縁の原田樹生はらだみきおだ。

「おう良かったな道長。これで念願の彼女とデートが出来るぞ」

「悪いなこれからはお前と遊ぶ時間が減っちまいそうだ」

「へっ言っとけ。愛想つかされるんじゃねぇぞ」

 俺は原田と拳をコツンと合わせた。何かとやっているが特に意味はない。


 × × × ×


「はい此崎君お弁当作ってきたよ」

「頼んでもないのにありがとうな。嬉しいよ」

「お口に合うかわからないけど⋯⋯」

「末永が頑張って作ったんだ不味いわけないだろ」

「此崎君⋯⋯」

 俺は手渡された末永の弁当箱を開ける。ご飯の部分は、かわいい熊のおにぎり。タコさんウインナーに卵焼き、彩りにレタスとプチトマトが入っていた。見た目もバランスも100点満点の弁当だ。

「いただきます!」

 俺はまず卵焼きを箸につけ口に運んだ。甘い派か塩派か単純に気になったからだ。どちらも好きだが俺は塩派。口に入れた瞬間、バターの香りがした。バターの程よい塩味と卵本来の甘さに俺の舌は驚いた。

「う、美味い」

「本当!?」

「あぁ。正直言って今まで食べてきた卵焼きの順位を遥かに上回っている⋯⋯完璧だ」

 末永はホッと胸を撫で下ろした。安堵しなくとも俺が大好きな彼女の弁当を不味いなどとは言わないのだがな。それから次から次へと箸が止まらずあっという間に感触してしまった。

「末永、弁当箱洗って返すよ」

「ううん。明日入れるお弁当箱ないから気にしなくていいからね」

「そういう事なら。弁当のお礼がしたい。俺に出来ることなら何でもさせてくれ!」

「私がしたくてしただけだからいいのに」

「俺がしたくてしたいだけだから気にすんな」

「じゃあ⋯⋯」

 俺は末永のお願いであるお口あーんをする事になった。箸で末永のタコさんウインナーを摘み口元まで運ぶ。末永は目を閉じていた。何だか色っぽい⋯⋯。末永は幸せそうにタコさんウインナーを咀嚼していた。確かにタコさんウインナーは美味かったがそこまでの表情をするほどとは。


 × × × ×


「何だか今日はとっても幸せ」

「なーに言ってんだよ。これから毎日幸せだ」

「此崎君⋯⋯!」

 帰り道いつもの様に末永を家まで送る最中めちゃくちゃ惚気てしまった。そんな中、末永は何やらモジモジしている。

「どうした末永?」

「ううん。何でもない」

「隠し事はよそうぜ。何でも遠慮なく言ってくれ」

「⋯⋯その。手、繋ぎたいです」

 顔を真赤にしながら上目遣いでそんな事を言われるなんて反則過ぎる。俺はすぐさま制服で手汗を拭い末永の手を握る。

「あ⋯⋯」

「末永の手、柔らかくて温かい」

「此崎君の手は大きくて硬くて、でも優しい」

 ただ手を握っただけなのにどうしてこんなにも胸は高鳴るのだろう。末永も俺と同じくらいドキドキしてくれてると嬉しいな。





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