第5話 闇を武器に、生き残った女


銀座の初回単価は

ボトル代を含めて——1時間約4万円。





私は今でも覚えている言葉がある。


「俺は19歳の女の子と話すために、銀座に来てるわけじゃない。

だったら歌舞伎町に行くよ。

娘みたいに感じるから他の人と交代して。」







——じゃあ私は、どうしたら4万円の“価値”を持てる?




自問自答の末

答えにたどり着かなかった私がした事は

「病み営業」だった。







「誰にも必要とされてなくて泣きそう」

「今日もひとりで待機で寂しい」

「あなたにしか頼れない」




ひたすら毎日連絡を続けた。


「向いてないなら辞めたら?」

なんて言葉を浴びることも少なくなかった。





だけどそれしかできなかった。

誰にも負けたくなかったから。





その必死さが伝わったのか

徐々にお客様が来てくれるようになった。





結果はいつもNO.6

売上額は他の“お姉様”たちとは桁違い。






それでも私は自分を信じて

「連絡をし続けること」だけはやめなかった。






そんなタイミングでお店が大箱と合併。

キャストは一気に80名近くに膨れ上がった。






そこから始まったのは「出勤調整」

お客様を呼べなければ出勤が出来ない。





お店からの電話が鳴る。

「今日のご予定は?」


——私は、“予定”でしか自分の存在価値を証明できなくなっていった。





他のキャストに負けたくなかった。

とにかく営業にこだわった。




朝、全員にメールを送る。

お昼の休憩時間に返信をする。

そして、17時の帰宅頃に必ず全員に電話。


相手が携帯を見るタイミングを狙って

毎日欠かさず全員に連絡した。







そしてお店に相談をした。


「私は長く席につかなくていいので、とにかく連絡先を交換したいんです。

1分でもいいのでとにかく多くの席に着かせてください。」





私は、単価は低くても

“客数”を持てるホステスになっていった。






でもその裏で「病み営業」がもたらした

副作用にも気づきはじめていた。


——“行ってあげたから、それで満足でしょ?”







そんなお客様の心理が根づいてしまい

単価を上げるのが難しくなっていったのだ。



それに気づかないまま

私は単価が低いままでも

キャスト80人の中でNo.4まで上りつめていく。

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