第3話 『必ず売れる』あの日、銀座に拾われた
ふと訪れた銀座だった。
ネイルサロンの場所が分からず
道に迷っていた。
そのとき声をかけてくれたのは
背広姿の男性だった。
「何かお探しでしょうか?」
その人は丁寧に
そして驚くほど優しく道案内をしてくれた。
そのまま立ち去ろうとした時
名刺を差し出され、こう言われた。
「私、銀座でニュークラブをしております」
「宜しければ、一緒に働きませんか?」
私はすぐに断った。
「案内ありがとうございます。
ただ……ニュークラブは考えてません」
そう言って、ネイルサロンへと足を運んだ。
ほんの少し、心がざわついていた。
ネイルが終わり、外に出ると——
さっきの男性が、まだそこに立っていた。
「お店を見てから決めてほしい」
「あなたなら、必ず売れる。僕にはその自信がある。一度話しを聞いてほしい。」
道案内をしてもらった手前
無下にすることもできず、私は口にした。
「……じゃあ、話だけ聞きます。」
近くのカフェに案内され
一杯1000円のコーヒーをご馳走になった。
——さすが、銀座。
生まれて初めて飲む、高級なコーヒーの味が
妙に苦く感じた。
「時給4000円。ドレスもヘアメイクも特別にお店が負担。靴もプレゼントするから、体験入店だけでもどうでしょうか?」
——時給4000円。
その一言が、私の中で何かを突き動かした。
池袋で働く私の時給は、1200円。
見返したい、という気持ちがふと顔を出した。
私を必要としてくれている。
そう錯覚した。
何も知らない19歳の私が
たった一本の道案内から
銀座という異世界に足を踏み入れる——
そんな瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます